129話「決意と殺意」
◆pqQ1ngVOkg
「違う……俺は……俺は……」
戦争に参加させられていたとは言え、統夜には戦う為の決意も覚悟も無かった。
ただ、彼の陥った状況が戦う以外の選択肢を許さなかっただけ
故に自ら誰かを殺すという、この状況においてはある意味当然とも
言えるすら行為すら、正視できなかった。
だが、思う。本当にそれでいいのか と
結局、どう足掻こうが殺し合いは避けられる筈が無いのだ。
考えてもみろ。もし、先程の相手の救助が間に合っていたとしよう。その後どうなっていた?
殺そうとしたけどやっぱり辞めたから許して欲しい
と、言外に言われて許すような人間がいるか?
少なくとも自分にはそんな相手を信用する事などできない。
ならばこそ、殺すと決めた瞬間に、遅くとも目の前の相手を切り裂いたその時に、
その決意を後悔しないだけの強さを持つべきだったのだ。
「そうだ……認めるんだ紫雲統夜……もう残された道なんて1つしか無い……」
迷っている
殺したくない
全て偽善だ。ただ、自分の手を汚すのが嫌だっただけ。
本当に死にたくないのならそんな弱さからまず捨てるべきだった。
生き残る為に必要だった決意から目を背けていた少年の心が、再構築されていく。
与えられた薬を一錠飲み込む。すると、ラピスのサポートを受けた時と同じ程度の感覚が戻ってきた。
ゲームの舞台に舞い戻ったアキトの目に映ったのは、
1機の青い機体と、恐らくそれによって破壊されたであろう残骸だった。
誰であろうと、ユリカの為に殺して殺して殺し尽くすと覚悟を決めた彼にとって、
どんな状況でも関係無い。むしろ、1機で突っ立っているような迂闊な相手が最初の敵で
ある幸運に感謝するぐらいだった。
(20分……いや、25分経ったら安全な場所まで全力で避難する)
だが、その時間を少したりとも無駄にはできない。
殺せるだけ殺さねばならない。他の参加者に比べ、自分に残された時間は余りにも少なすぎる。
唐突なレーダーの反応に統夜は我に返る。
「反応?!何時の間にこんな距離まで……」
その機体は、沸いてくるようにして現れた。
ヴァイサーガを動かし、対応しようとするが少し遅かった。
「遅い……!」
最大加速の突進をまともに受けたヴァイサーガは
落下を始める。アルトアイゼンはそのまま落下するヴァイサーガへ向けて3連マシンキャノンを発射。
「このっ……好き勝手にさせるかよ!!」
だが、ヴァイサーガのシールドが展開され、弾幕を防ぎきった。
しかし、アルトアイゼンの攻めはまだ終わらない。マシンキャノンを撃ち終えると同時に、
アルトアイゼンはヴァイサーガへ向けて更に突進。ヒートホーンで頭部を切り裂こうとするが、
今度は回避を間に合わせたヴァイサーガのシールドを一部切り裂く程度に留まる。
「いい加減にしろおおお!!」
ヴァイサーガの反撃が始まった。右手を鞘に納まった剣に添え、相手へ向けて抜き打つ事により、
この機体の武器の1つである、地斬疾空刀が発動。エネルギーの刃が、アルトアイゼンへと向かって牙を剥いた。
アルトアイゼンは強引過ぎる動きで軌道を変え、刃をかわす。
「まだ終わらないぞ!!」
アルトアイゼンの回避動作終了の隙に、左手に持たせた4本の手裏剣を投擲する。
再び無理な加速で回避を試みたアキトだったが、全てをかわしきる事はできず、
1本が胸部に直撃した。だが、アルトの装甲を抜くにはそれは少しばかり威力が足りなかった。
「クソッ……何なんだよあいつは?!」
相手はかなり装甲の厚い機体のようだ。
だが、反撃が無い事、先ほどまでの攻撃を見るに、接近戦に特化した機体であるように
見受けられる。距離を維持して戦えば有利になるかも知れないが、
ヴァイサーガの武装もどちらかと言えば接近戦寄りになっている上、中、遠距離用の
武装はあの敵に対しては力不足と言わざるを得ない。
「やるしかないってんなら……やってやるさ!」
再び右手に剣を握り、距離を取る。
狙うは、先ほどラーゼフォンを葬った一撃。ヴァイサーガの切り札である奥義・光刃閃
「抜き打ちか……来い」
アキトもまた、それを迎え撃たんと右手のステークを構える。
そして、その姿を見て統夜は勝利を確信した。
確かに相手の機体の突進力は凄いし、装甲の厚さも厄介だ。
しかし、自分の機体の剣と、敵の右手に備えられた杭打ち機を比べれば、どちらが有利かは
言うまでもない。それに、幾ら装甲が厚いと言えど、あれが直撃して耐えられるとは思えない。
脳裏に先程自分が殺した相手の惨状が浮かんだが、統夜はそれを振り切る
(考えるな。今余計な事に気を取られたら自分がああなるんだ!!
それにもう決めた筈だ。この手で誰かを殺しても後悔なんてしないって!)
自分の身に降りかかったリアルな死への恐怖が、最後の迷いを捨てさせ、心を鋼へと変えて行く。
「俺は……こんな所で死んでたまるかああああ!!」
瞬間、ヴァイサーガはアルトアイゼンを最強最速の一撃で両断すべく加速する。
目の前に迫る死を、アキトは静かなる殺意を以って見据える。
「確かに、このまま正面からやりあえば俺に勝ち目は無いようだ」
右手の構えを解く
「だが、俺にそんな気は無い……」
アルトアイゼンの肩部アーマーが開く。それは、罠にかかった獲物を待ち受ける肉食動物の顎と同義。
瞬間、統夜の背筋に悪寒が走った。統夜は直感に従って、右手に剣を握らせたまま、左手でシールドを展開、
更に、軌道を逸らそうと試みる。
そして、アルトアイゼンの肩部アーマーから無数のクレイモアがヴァイサーガを食らい尽くさんと吐き出された。
至近距離からまともにこの武器を食らって無事でいられる機体などそうそういる筈もない。
「あれをかわすか」
だが、ヴァイサーガはまだ落ちていなかった。
軌道を完全に逸らすのが無理だと判断した統夜は、せめて被害を最小限にすべく、アルトアイゼンの左側、
つまりヴァイサーガの右手側に抜けるように機体を加速させた。
統夜は賭けに勝利し、ヴァイサーガもまだ動ける。だが、無傷で抜けられるような甘い弾幕ではなかった。
シールドはボロボロになり、左手は完全に破壊された。頭部の角も一部が砕けている。
「ならば、今度はこちらから仕掛けるまでだ」
手負いのヴァイサーガにトドメを刺すべく、ステークを構え、アルトアイゼンが突撃する。
だが、劣勢を理解した統夜の判断は潔い物だった。アルトアイゼンに見向きもせず、
最大加速で湖の方へ飛び、長時間の飛行が不可能であるアルトアイゼンを突き放して逃げて行ったのだ。
「……逃げられたか」
時間を無駄にしてしまったが、それなりの手応えもあった。
自分の新しい機体は色々な部分がかなり偏ってはいるが、悪い機体では無いらしい。
そして考える。次はどう動くか。
「残りは25分程度……敵を探すべきだな」
限られた時間を無駄にしない為に、アキトは再び行動を開始する。
「まずは南へ行くか」
絶対の殺意を込めた蒼き鋼が、獲物を求め動き始めた。
【テンカワ・アキト 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦IMPACT)
パイロット状態:マーダー化 心身共に良好
機体状態:胸部に軽度の損傷。3連マシンキャノン2発消費、スクエアクレイモア1発消費
現在位置:G-8
第一行動方針:薬が切れる前に敵を探し出して殺す
第二行動方針:タイムリミット前に安全な場所へ移動(薬の使用後、25分から避難開始)
最終行動方針:ユリカを生き返らせる
備考:・首輪の爆破条件に“ボソンジャンプの使用”が追加。
・謎の薬を一錠使用。効果の残り時間は25分。
敵の追撃が無い事、周囲に機影が無い事を確認し、ようやく統夜は一息付けた。
「もう少しで俺は……」
思い出すだけで身体中の震えが止まらない。
もし、あのまま突っ込んでいれば、自分はとっくに死んでいた。
機体の損傷も馬鹿にできない。シールドはもはやその役目を果たす事は無い
だろうし、左手に至っては完全に動かない。
だが、これで吹っ切れた。高い授業料を払う羽目にはなってしまったが、
ようやく自分の中に燻っていた迷いと訣別する事ができたのだ。
そう、死にたくないのは誰だって一緒だ。
だから、自分の為に他人を殺そうとするのはこの状況においては何も間違って無い。
でなければ自分が死ぬだけ。
「考えろ、考えるんだ。どうすれば生き延びられるか。こんな所で死ぬなんて真っ平御免だ」
統夜の思考は、優勝にのみ向けられて行く。一瞬、まだ生きている、そして死んでしまった
顔見知りの姿が脳裏をよぎったが、あっさりとそれを切り捨てる。
「無駄な事は考えるな……どうせ俺が生き延びるには全員殺さなくちゃいけないんだ。
そうさ……戦争に巻き込まれたのも、こんな状況になったのも全部あいつ等の所為だろう」
何度も考えていた。あの日、あの3人と出会わなければ、
自分はこんな場所にいなくても良かったのではないか と。
戦争に巻き込まれなければ、一般人として普通に生きるか、
運悪く戦争に巻きこれて死ぬか。そんな人生で終わった筈なのだ。
少なくとも、どちらであれこんな狂った殺し合いに巻き込まれるよりは
遥かにマシな人生だった筈。
だからこそ、決意する。絶対に生き延びてやる と。
少年を縛る心の鎖は全て解け、残ったのは生への渇望と、
自分をこのような場所へ追い込んだ全てに対する怒りだけだった。
【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状態:覚悟完了
機体状態:左手使用不能、シールド使用不能、頭部の角の一部紛失、若干のEN消費。烈火刃1発消費。
現在位置:A-7
第一行動方針:優勝する為の方法を考える
最終行動方針:優勝と生還】
【二日目3:00】
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―人が命懸けるモノ―」
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