130話I「Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―」
◆7vhi1CrLM6



 ラキが出て行って暫くたってから、ネリー・ブレンが戻ってきた。その姿は泣いていた。何故だか分からないが、そんな気がしたのだ。
 コックピットを覗くとそこにはラキの遺骸が乗っていた。
 それとヒメ・ブレンの分の穴をネリー・ブレンと一緒に掘った。クルツは跡形もなく吹き飛んでいて、埋めるようなものは何も残っていなかったのだ。
 ブレンに触れ、そっと呟く。

「ねぇ、ブレン。ラキの最後は……どんなだった?」
(……)
「そう……そうか。うん。ありがとう」

 二つの遺骸を納め、土をかぶせていく。こみ上げてくるものをグッと堪える。
 ジョシュアを埋めたときには泣いた。シャアが死んだときには泣く気力すら残っていなかった。
 でも、今は泣くべきではないと思っていた。
 みんな見事に死んでいった。そうだ。見事な最後だったんだ。死ぬときはこうありたいと誰もが思えるような見事な死に様だ。
 でも……死は死だ。他の何者でもない。
 そして、自分は生かされた。たまたま自分は生かされたのかもしれない。そこにいたのが自分でない誰かであっても、きっとみんな守って死んでいっただろう。
 だからといって、自分が生かされたという事実はなくならない。それはやはり黙して受け止めるべきことなのだ。
 今はまだ泣かない。
 泣くのはやるべきことが全部終わったあとでいい。そのときに思い出して泣こう。そのときまで涙は取っておこう。
 遺骸が土に隠れると胸の前で手を合わせ、ゆっくりと目を閉じる。
 ジョシュアは何も言わずにただ守ってくれた。シャアは死ぬこと以外好きにしろと言った。
 クルツは命を懸けても譲れないことがあることを教えてくれた。ラキはただ頑張れと言ってくれた。
 そして、ヒメ・ブレンはこんな私に最後まで付き合ってくれた。文句の一言もなく。
 でも、何をやるべきなのかは、誰も教えてくれなかった。それはきっと自分で決めるべきことだ。みんなが生かしてくれた自分が自分で決めるべきことだ。
 そう思った。
 スッと目を開けたアイビスは、顔を上げてネリー・ブレンを見上げる。真似たのか両手を合わせた姿がそこにはあった。
 そのどこか滑稽な姿にふっと頬を緩ませ、墓に背を向けて歩き出す。後ろ髪引かれながらも振り向かない。振り向いてはならない。

『そりゃ、お前が引け目を感じているからだ』

 ギンガナムに接触する前、ラキのことを聞いた返しに、ここに来てからの話をしたときのクルツの言葉だ。

『一方的に何かをしてもらったと思ってる。自分は何もしてないのにってな。つまり対等だと思えないんだ。仲間なのにな。
 理由もないのに世話を焼かれ続けるのってきまりが悪いだろ? それと同じだ。相手は気にしてないのかもしれないが、お前はそれを気にしてる。
 だったら見返してやれるぐらいしっかりした人間になればいいのさ。そのくらい自分に自信がついたら、その後ろめたさは消えるんじゃねえかな』

 一人生き残ってしまった後ろめたさ。それはまだ消えない。多分そう簡単に消えるものでもないだろう。消えるようなものではないのかもしれない。
 それでも、いつかは死んでいった人たちの命に見合うような人間になりたかった。

「ジョシュア、ラキ、シャア、クルツ、ブレン……あんた達はそこで見ていて……もう迷わないから。もう立ち止まらないから。
 私は、私なりの生き方で精一杯生き抜いて見せるから……。だから、笑って見ていて」

 墓を背に、喉元まで出掛かった嗚咽と涙を押し戻し、空を見上げたアイビスは言う。思いのほか綺麗に澄んだ声が、朝露に溶けて消えていった。

「行こう、ブレン」



【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:主催者に対する怒り、疲労(主に精神面)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:状況の把握
 第二行動方針:協力者を捜索
 第三行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第四行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-3
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。
        無数の微細な傷、装甲を損耗、EN残量1/2、
        ENの減少により長距離バイタルジャンプの使用不可
 現在位置:D-3
 第一行動方針:自分がするべきことを見つける
 最終行動方針:精一杯生き抜く
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【グラキエース 搭乗機体:なし
 パイロット状況:死亡(首輪爆発)
 機体状況:なし】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:死亡(首輪爆発)
 機体状況:右腕肘から先消失、腹部装甲に折れたブレンバーが突き刺さっている
        各部装甲に多数の損傷、表面装甲の六割が融解して垂れ下がり凝固、EN10%
 備考:シャイニングガンダムの現在地はD-4】

【残り24人】

【二日目5:30】


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