132話「ヘヴンズゲート 」
◆ZbL7QonnV.



 レオナルド・メディチ・ブンドル。
 今現在の段階において、バトルロワイアルの破壊と言う最終的な目的に、最も近い場所に位置しているのは彼かもしれなかった。
 情報分析分野に於いて比類無き能力を発揮する彼の頭脳は、この凄惨な殺し合いが始められてから一日を待たずに脱出の糸口を見付け出していた。
 この殺し合いが開始されてからまず、ブンドルはサイバスターのラプラスコンピューターにあるデータを入力していた。
 それはブンドルが自分の元居た世界に於いて、グッドサンダーチームと奪い合った超エネルギー、ビムラーのデータであった。
 あらゆる無機物に自意識を持たせる事が可能なビムラーであれば、首輪を解除する事も不可能ではないのではないだろうか。
 外部から首輪を解除するのではなく、首輪自身に爆破機能をカットさせる。それならばアインストの妨害を受ける事無く、首輪を解除する事も出来るはず。
 いや、そうでなくとも瞬間移動を可能とするビムラーであればアインストの手が届かない世界に退避した上で、首輪の解析に取り掛かる事も充分可能なはずである。
 そう考えたブンドルは、ビムラーのデータをラプラスコンピューターに入力し、その捜索を行っていたのだった。
 もっとも、それが望みの薄い賭けである事は、ブンドル自身も理解していた。
 ビムラーは、宇宙意思“ビッグソウル”の導きによって、新人類の進化を促すエネルギーである。
 真田ケン太のような“選ばれた者”が居ない限り、ビムラーがその力を発現させる事は決して無いだろう。
 だから、実を言うと、ブンドルはビムラーの捜索に大した成果は期待していなかった。
 ……だが、その捜索は思わぬ結果を生み出す事となる。
 ビムラーと酷似した性質を持つ“あるエネルギー”の存在を、ラプラスコンピューターは捕捉していたのだ。
 その名は、ゲッター線。宇宙から無限に降り注ぐそのエネルギーを検知した瞬間、ブンドルはある一つの疑問を抱いた。
 この殺し合いが行われている会場が閉鎖空間である事は、あの光る壁を見て疑う余地など無い。
 だから、普通はこう考える。
 あの光る壁を突破しさえすれば、その向こう側には“会場の外”が存在するはずだと。
 だが、違う。ブンドルは確信を持って、その考えを否定していた。
 あの光の壁を飛び越えた向こう側には、何もありはしないのだ。
 根拠なら、ある。
 この殺し合いに放り込まれてから、ブンドルは会場内の情報を集めていた。その中には、都市の様子を撮影した画像データも含まれている。それを見て、ブンドルの疑問は確信に変化した。
 あまりにも、綺麗過ぎる。
 そこが人間の生活していた場所である限り、ゴミの発生は抑えられないはずだ。それなのに、ゴミが何処にも落ちていない。
 人間の生活臭が、全く存在しないのだ。 
 商店を探せば物は置いてあるし、家屋には生活用具も揃っている。だが、それが使用された形跡は見当たらない。
 つまり、この世界に人間が存在していた事は無いのだ。
 この会場は住民全てを都市から退去させた上で、光の障壁で覆い隠したわけではない。 むしろ新しく世界を創り上げた上で、その中に参加者を放り込んだと考えた方が納得出来る。
 そこで、ひとつ疑問が生じる。
 この閉じ込められた世界に対して、どうやって“外部の力”が影響を与える事が出来たのだ……?
 その疑問は氷解した。エネルギーの発生源を探り当てた、ラプラスコンピューターの働きによって。
 この世界には、ほんの僅かに綻びが存在する。
 もしアインストの喉元に喰い付こうとするならば、その綻びを突き抜けるしかない。その綻びに膨大なエネルギーを叩き付けて、強引に世界の綻びを広げるしかないのだ。
 少なくとも現状取り得る手段の中では、それが最も有効な手段のはずだった。
 サイバスターの最強攻撃手段である、コスモノヴァの火力だけでは足りない。それと同等以上の攻撃力を持った機体が、あと最低三機は必要なはずだ。
 空間の綻びが存在する地点は、D−4エリア。その超高々度に、アインストに至る門は存在する。
 その情報を今まで秘していたのは、無論会話を傍聴されている危険性を考慮しての事だった。



「……どうやら、手遅れだったようだな」
 沈痛な面持ちでブンドルは呟く。
 間に合わなかった。ブンドルが辿り着いた場所で目にしたのは、巨大な爆発が起きた形跡。そこには、何も存在しなかった。
 この爆発に巻き込まれて、ギンガナムは逝ったのだろうか。もし生き延びる事が出来たと言うのならば驚愕に値するが、その可能性は決して高くはないだろう。
 もし無事であるならば、あの好戦的な男の事だ。あれだけ関心を示していた獲物――マスターガンダムと言っていたか――を見過ごす事などありえないのだから。
 もし彼が死んでしまっていたというのならば、それは手痛い損失だった。
 単純な戦闘力は勿論の事だが、あの男が持つ“黒歴史”の情報は実に得難いものだったのだから。
「アムロ・レイに、ガロード・ラン……彼等は無事だと良いのだが……」
 現在別行動を取っている、二人の顔を思い出す。彼等の無事を、ブンドルは願わずにいられなかった。



【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:主催者に対する怒り、疲労(主に精神面)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:協力者を捜索
 第二行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第三行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 第四行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
 備考2:空間の綻びを認識】

【二日目5:45】


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