134話「それぞれの思惑」
◆C0vluWr0so



「……ジョナサン?」
「なんだ、クインシィ」
「……私の言いたいことは分かるだろう」
「……ああ、すまない。やはり時間が経ちすぎていたようだな……」

黒い機体との戦闘から離脱した真ゲッターは、Jアークが待機しているはずのポイントへと到着した。
しかし、暗い森の中の何処にもJアークの巨大すぎる影は無い。
キラと別れた場所から補給ポイントまで何度往復しても結果は同じ。
キラとソロバンはJアークごと何処かへ行ってしまったのだと気づき、舌打ちをするジョナサン。

「だが、お前はこう言った。
 『もしかしたら俺を捜しに行ったのかもしれないな。ここで待ってみるのも一つの手だろう』
 その言葉を信じた私が馬鹿だったようだ。呆れたよ、ジョナサン=グレーン」
「確かにこの何時間かを無為に過ごしたことは謝罪に値する。謝らせてもらう。
 だがなクインシィ、これはこれから俺たちが動く上で重要な指標になることかもしれんぞ?」
「……どういう意味だ」

不敵な笑みを浮かべそのような言葉を口にするジョナサンに対し、クインシィは眉をひそめながら疑問を返す。
無駄にした数時間分の価値はあるのだろうな、と睨み付けながらだ。
ジョナサンはクインシィの鋭い眼光から眼を背けることなく答えていく。

「やはり俺たち二人以外の人間は信用出来ない、ということだよ。
 キラに何があったかは知らないが……俺も当てにしていたところはあった。
 だが実際はこれだ。キラが今現在生きているかどうかも分からん。
 それどころかこの殺し合いに乗り、俺たちの敵になっている可能性だって否定出来ないだろうなぁ」
「だから何だと言うんだ。まさか、私たち以外の人間――ガロードを切れ、とでも?」
「おっと、早とちりしてもらっちゃ困るなクインシィ。俺はただ、気を付けようと言っているのさ。
 ……まぁ、俺はガロードを切ってもいいと考えているがね」
「……本気で言っているのか?」
「ああ、そうさ。まさか、このままあの怪物を倒して仲良しこよしで帰れるとはオルファンの女王も考えちゃいないだろうな?
 それは甘すぎるぜ。本気で帰るというのなら――最後の一人になることが一番確実だろうよ」

いつの間にかジョナサンの顔からは笑みが消え、代わりに真剣な表情が浮かんでいる。
そもそもこの男、最初からクインシィ=イッサーを生還させることを最終目的に動いていた。
キラやガロードとの協力も、数減らしも、すべてはクインシィが生き残る確率を少しでも上げるため。
お互いに死なないため、生きて帰るため。そんな目的で徒党を組む参加者とは違う。
彼にとってはクインシィを除く全ての参加者は、彼女を生き残らせるための駒に過ぎないのだ。
――無論、ジョナサン=グレーン自身さえも。

「俺はお前に死んで欲しくないのさ。そりゃキラやガロードと一緒に生き残れるというのならそれは最善だ。
 だが、そうも言ってられないということも聡いクインシィにだって分かるだろう?」
「……それは認める。だが、ガロードは……!」
「勇はここにいないかもしれない。帰らなきゃ会えないかもしれないんだぞクインシィ!」

勇の名前が出た途端、クインシィの顔が陰ったのをジョナサンは見逃さなかった。
(やはり勇はクインシィの泣き所か……あまり勇をダシにするのも癪だが、それでクインシィを手懐けられるのなら安いものだ)

「仲間との友情、そして強敵の撃破! みんなでハッピーエンド! 大いに結構なことだよ、コミックの中ではな!
 現実を見ろクインシィ。お前が帰らなきゃ、オルファンは、リクレイマーは、伊佐美勇はどうなるんだ。
 何度でも言うぜ。お前は帰るんだ、オルファンへ! オルファンの女王、クインシィ=イッサー!」

「だが、ガロードは……! ガロードは、勇を一緒に捜してくれると言ってくれた!」

緊、と空気が張り詰める。
一瞬の後それは解け、再びクインシィが口を開いた。

「確かにお前の言うことは分かる。だからといってそれは、私がガロードを見捨てる理由にはならない!
 勇がここにいないというのならガロードと一緒にここから帰って会いに行くさ!
 ……だから、その考えは無しだ、ジョナサン」
「……後悔するぜ」
「しないさ。私はクインシィ=イッサーだからな」

威風堂々。まさにその形容が似合う、そんな風格を身に纏う眼前の女性を見つめる。
……やはり、この女はオルファンの女王たる女なのだと実感する。
そして、同時にこうも思う。
(やはり、お前は死なせるわけにはいかない女だ)
ガロードやキラがあの怪物を倒せるというのなら、そのお零れを頂くまでだ。
ある程度なら協力をしてやってもいい。そこまでは譲ろう。
だが、クインシィの命を守り、何としてでも生きてオルファンに帰す。このことだけは譲れない。
(恨むぜ、ガロード。お前がいなければクインシィは何も考えずにこのゲームの勝者になることを選んだろうにな)
もう遅い。ガロード=ランという存在はクインシィを構成する一部分となってしまったようだ。

「……もうこんな時間だ。行くか、クインシィ。ガロードと、隼人とかいう男を迎えに」
「ああ」

時刻は午前四時を過ぎているが、このまま合流地点を目指せば放送の前にはガロードたちと合流出来るだろう。
クインシィの建前、ひとまずは猫を被っておこうと決める。
真ゲッター2が地上を走り出した。
速さは力を感じさせてくれる。アンチボディに乗っていたときには感じなかった力を、ジョナサンはゲッターから感じていた。

 ◆

一方、B-1地区――午前四時。
ここではアムロ=レイとガロード=ランの二名が、各々の情報の交換と今後の行動方針についての相談とを行っていた。

「……つまり、君とクインシィという女性は、神隼人氏と共に行動をしていたが、この場所で戦闘が始まった」
「相手は神さんの知り合いだった。とは言ってもなんだか話が噛合っちゃいなかったみたいだけど。
 そして、俺とお姉さんの二人だけがここから離脱して……ここから南の方でお姉さんの知り合いのジョナサンって奴と会ったんだ。
 その後ジョナサンと機体を交換して、俺は神さんを迎えにここへとんぼ返り……だったんだけどな」

神隼人が乗っていたという可変戦闘機――主翼、四肢、その他諸々のパーツから、アムロはバルキリーと同系統の機体だと判断した――は、原型を留めてはいなかった。
おそらくは空中戦闘の途中で撃墜され、地上に落下したのだろう。木っ端微塵になったそれに、生者が乗っているはずもない。
遺体もまた粉微塵になっており、首輪も発見出来ない状況であった。

……惜しい人物を亡くしてしまった。アムロはそう思う。
ガロードからの話を聞く限り、神隼人はこの状況を打破する大きな助けになってくれるはずの男だった。
行動の全てが遅すぎるのだと、改めて痛感する。
(集団を小分けにし、速さを損なうことなく動く――ブンドルの策は正しかった。
 だが、事態は予想以上の速さで進行しつつある、か)
次の放送で何人の名前が呼ばれることになるのか……アムロには予想も付かない。
少なくともシャア=アズナブル、神隼人の名前は呼ばれることになるだろう。
そして、先ほど首輪を回収したガナドゥールのパイロット。
ギンガナムがブンドルと交戦をしたというのなら、胸に獅子を持つ機体のパイロットも死亡した可能性はある。
可能性だけで言うのなら、アイビスも無事だとは言い切れないのだ。

「それでだけどさ」
ガロードの一言がアムロの思考を遮る。
ふとガロードの顔を見ると、いつになく真剣な面もちでアムロを見つめている。
「アムロさんを疑ってるわけじゃない。……その首輪の持ち主について聞きたいんだけど」
「……俺がガナドゥールに乗り込んだとき、既に事切れていた。
 神隼人氏とその知人との戦闘に巻き込まれた可能性は高いだろうな」
「いや、それならいいんだ……って、こんな言い方は不謹慎か。
 その人、どうやらお姉さんの弟と一緒にいたみたいでさ。
 アムロさんも知らないかい? 勇って男と、そいつが乗ってるらしい蒼いブレンパワードを」
「ブレンパワード? ……いや、その勇という人物と蒼いブレンというのは知らない。
 だが、別のブレンパワードなら見ている。 アイビス――俺が捜している女性も、ブレンパワードに乗っているはずだ」
「へぇっ? こりゃ偶然。でもまぁ、だから何だって話だな。
 それでアムロさん、これからどうするんだ? 俺と一緒にお姉さんたちと合流するのか、それとも単独で動くのか。
 俺としてはアムロさんに来てもらいたいんだけどな」
「そうだな……一度、その二人とも会っておきたい。情報交換もしておきたいところだからな」

それに……と、アムロは無言で首輪を指し示す。
「まだ俺たちが知らないことをその二人が知っているかもしれない。
 一度離れれば二度と会えなくなることだってある。
 これ以上チャンスは潰したくないというのは君にも分かってもらえるはずだ」

コクリと頷くと、ガロードは早速ガンダムに乗り込み始めた。
ガンダム――そう、それはガンダムとしか言い様のないフォルムを持っている。
「それじゃ行こうぜ! ……っと、何かおかしいところでもある?」
「ガンダム……ガロード、君はガンダムを知っていると言っていたな?」
「ああ、そうだよ。まぁ、このF-91は俺も知らないガンダムだけどね。
 もしかしてアムロさんもガンダム乗り?」
「ああ。何の自慢にもならないが、実戦で初めてガンダムを乗りこなしたパイロット……ということになっている。
 だが、俺の世界でガンダムが開発されてから十年以上経っているが、そんなガンダムは俺も見たことが無い。
 使われている技術自体は俺の世界のものの延長線上にあるようだが……」
「それこそヘイコン世界、ってやつだな!
 俺とアムロさんの世界じゃモビルスーツだのガンダムだの、似たような名前が多いみたいだ。
 もしかすると他にも共通点があるかもしれないぜ。例えば……ニュータイプとか!」
「ニュータイプ……! 君の世界にもニュータイプが存在するのか!?」
「でもそれは、幻想だ」
「え?」
「俺の言葉じゃないんだけどな。ある、ニュータイプと呼ばれた人の言葉だよ。
 ニュータイプは幻想だ……戦争の道具なんかに使うのは間違っている。
 俺もそう思うぜ。アムロさんの世界のニュータイプは?」
「おそらく、君の世界と変わらないものだよ。俺の世界でもニュータイプは争いを生む存在だった。
 ニュータイプという言葉と力に踊らされ、ときには迫害され……酷いものだった」
「ならそんな世界は変えてしまわなきゃな! ……ここから帰ってさ!」
「ガロード……」
「言っとくけど、俺はいつだって本気だ。本気で、ここから帰るつもりだよ」
「ああ、そうだな。……俺たちは、帰らなきゃいけない」

頷くと、アムロもまたストレーガに乗り込む。
レース・アルカーナが産み出す動力が重低音となって夜の街に響き渡る。
そして、遙かな時を超えて出会った二人のガンダムパイロットは、共に飛び立っていった。



【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:疲労小
 機体状態:ダメージ蓄積
 現在位置:C-6
 第一行動方針:C-8へ向かい、ガロードたちと合流
 第二行動方針:勇の捜索と撃破
 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
 第四行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:良好
 機体状態:ダメージ蓄積
 現在位置:C-6
 第一行動方針:C-8へ向かい、ガロードたちと合流
 第二行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保
 最終行動方針:どのような手を使ってでもクインシィを守り、オルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)
 備考:バサラが生きていることに気付いていません。

【アムロ・レイ 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状況:疲労
 機体状況:各部にダメージ(戦闘に支障無し)
 現在位置:B-1
 第一行動方針:ガロードの仲間と合流し、情報交換を行う
 第二行動方針:アイビスの捜索
 第三行動方針:協力者の探索
 第四行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
    シャアの死亡を悟っています
    首輪(エイジ)を一個所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:ガンダムF−91( 機動戦士ガンダムF−91)
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状態:微細な傷(戦闘に支障なし)
 現在位置:B-1
 第一行動方針:C-8へ向かい、クインシィとジョナサンと合流する
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】

【二日目4:50】


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