152話D「家路の幻像」
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「馬鹿な男だ」
管制塔の天上にぽっかりと空いた大穴からユーゼスは上空を眺めていた。
視界の先にはメディウス・ロクス――バーナード=ワイズマンがいる。司令室内部の通信機器はその声を伝えている。
既にメインコンピューターの損傷度合いは確認していた。出力は落ちているが電装系統に狂いはない。
AI1の行なっていた解析結果も高い解析率のモノがバックアップに残されている。後の処理はAI1でなくとも可能だ。首輪の解析に支障はない。
そして、最も重要な手を加えようとしていた謎のナノマシン。本体の首輪こそ持て行かれたが、一部をサンプリングし手元に残していた。
重ねて思う。馬鹿な男だ、と。
こうして何の得にもならないどころか、自身の不利になるようなことを口走っていることもそうだが、それ以上に自分に刃を向ける道を選んだということに対してである。
そのことの愚かしさが、ユーゼスに前述の感想を漏らさせていた。
ユーゼスに言わせてみれば、ここで生き残るには自分の手駒となる他に道はないのである。
自惚れではない。これは確定事項だ。
ここには奴がいない。自分を止めるべき宿命を帯びた宿敵がいない。奴以外に私は止められず。止められてやる己でもない。
だから、だ。だから、勝者は既に決している。一人勝ち残ろうと思えば間違いなく勝ち残れる。
例え、あの化け物に刃向かおうとも己が死ぬことなど有り得はしない。
ならば、全ては己の胸のうち一つ。この世界を支配しているのは実はアインストではなく己である。
強烈な自負心を持ってユーゼスはそれを確信している。だからこそ、バーニィを愚かと断じることにいささかの迷いもない。
しかし、少々の厄介さは感じていた。生き残れる。だが、それだけでは意味がない。
アインスト細胞、AI1、ラズムナニウム、TEエンジン、Gストーン、オーラ力、NT、そしてゲッター線にDG細胞。
これらの知識はこの世界で得たものだ。どれもこれもが素晴らしい。幾度転生を繰り返せばこれほどの知識を得ることが出来ただろうか。
それらを持ち帰ることは出来る。しかし、しかしだ。まだ最大の獲物が残っている。
ノイ=レジセイア――次元すらも自在に超え、これだけの素材を集めることの出来る存在。最も欲しいのは奴の力。
それを得るには少なくとも奴に並ぶ必要がある。その為には優れた技術を取り込み、高い効率で進化が行なえる機体が必要不可欠。
それが、メディウス・ロクス。それが、AI1。それは取り戻さなければならない。
それにはメディウスに多少なりとも抗える機体が必要だった。
視線を頭上から眼下に広がる瓦礫の荒野へと落す。
カミーユのいる地表面付近よりも遥かに高い管制塔。その高さから見下ろせば地上では確認できない瓦礫に埋没しかけている機体も目に留まる。
メリクリウスでは力不足。メディウスの再生能力を考えれば向うの損傷は気にしなくてもいい。稼動が可能な軽度の損傷、且つ高い戦闘力を誇る機体は――
「ローズ・セラヴィ……いや、ブラックゲッターといったところか。流竜馬と言ったか?あの男が残した斧もまだ使えるな」
当りをつけ、再び見上げた視界に真紅の閃光が南北に奔った。ほう、と口元を歪め――
「随分とのんびりとしたものだが……戻ったか、キョウスケ=ナンブ」
――丁度いい、と笑った。
貴様の撒いた種だ。一度ならず二度までも止めを刺し損ねた相手だ。そして、貴様の甘さが招いた結果がこれだ。
私の見ている前で落とし前をつけさせてやる。自分で始末をつけてみろ。あの男を止めてみせろ。それが貴様の役目だ。
◆
「エクセレンのようにはいかんか……ままならんな」
彼方の空。まだ上空に小さく佇む機体を狙ったオクスタンライフルの一撃は軸がズレ、彼方へと消えていった。
その真紅の光跡を見つめて苦々しく呟いた。
「……外れだな」
「射撃は苦手なんでな。だが、一応の効果はあった」
先ほどまでありとあらゆる周波数で通信機を鳴らし続けていた独白が途切れている。こちらに気づいたのだろう。
注意をこちらに向ける。それが目的。それが狙い。当ればそれは儲けもの、という程度しかない。
後は声の主をキョウスケ=ナンブは止めなければならない。この声をキョウスケは知っている。
ここに来て最初に出会ったのが奴ならば、奴に止めを刺さずに放置したのも自分だ。
ならば、この敵機の真下に横たわる惨たらしいまでの光景――基地が壊滅状態に陥ったことの責任の半ばは自身にある。
だが、残りの半分は――ユーゼス=ゴッツォ、貴様にある。睨みを利かせた瞳が鋭く光った。
貴様は言った。生存者は全機体ともなしだ、と。あの黒い機体を確認しに行った貴様が言ったのだ。
確認したときには既にいなかったでは通じん。貴様ほどの男が死亡を確認しもせずに不確かなことを口にするはずがあるまい。
ならばこれは、この惨状は貴様が仕掛けたことか。
根拠は薄い。主観的なのも分かっている。それでもそうとしか考えられない。ならば――
「その落とし前はつけさせてもらうぞ」
怖気の走るような凄みを伴って思わず口をついて漏れた言葉に「どうした?」と声がかかった。それに軽く「なんでもない」と返し、言葉を繋げる。
今、ユーゼスのことを話せる状況にはいない。まずは目の前の敵とケリを付け、自身の責を負わなければならない。
ユーゼスのことを話すのも、奴に奴自身の責を負わすのもその後でいい。
「向うもこちらに気づいた。そろそろ通信圏内も抜ける。お前はそのまま隠れていろ」
「……元よりそのつもりだ。悔しいが、今の俺ではただの足手まといにしかならん。
あんたに死なれると俺が困る。死ぬなよ」
「死ぬつもりはない……まだな」
それを最後に通信が途切れ、ノイズを伝えるのみとなる。
これでいい。今のあの男の状態では戦闘には耐え切れない。本人の言うように足手まといになる。
それに自分がケリを付けるべき相手だ。無駄に他者を危険にさらす必要はない。
これでいい、と再度結論付けたキョウスケがブーストを焚く、アルトアイゼンを遥か後方の森林に残し、ファルケンが低空を舐めるように飛んでいく。
速力は音速を超えて上昇を続け、周囲の景色が瞬く間に遠くなる。まだ互いに当る距離ではない。牽制もない。
しかし、時期に当る距離になる。その間合いへと僅かな怖れも見せずに隼は全速で飛び込んで行った。
【バーナード・ワイズマン 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX)
パイロット状況:頭部から出血、その他打ち身多数
機体状況:第二形態、損傷多数、EN残り40%、自己修復中、EN回復中
現在位置:G-6基地上空
第一行動方針:新手の敵に対応する
最終行動方針:生き残る
備考1:ユーゼスが行なった首輪の解析結果を所持しています
備考2:首輪を手に入れましたが気づいていません(DG細胞感染済み) 】
【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:なし
パイロット状態:若干の疲れ
現在位置:G-6基地管制塔司令室内部
第一行動方針:戦闘を観戦
第二行動方針:AI1の奪取
第三行動方針:首輪の解除
第四行動方針:サイバスターとの接触
第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
備考1:アインストに関する情報を手に入れました
備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
備考3:DG細胞のサンプルを所持】
【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルU(マクロス7)
パイロット状況:心理状態不安定
機体状況:不明
現在位置:G-6基地跡
第一行動方針:動く機体を探す
第二行動方針:マサキの捜索
第三行動方針:味方を集める
第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊
備考:ベガ、キョウスケに対してはある程度心を開きかけています】
※機体の損傷状態については次の方にお任せします。
【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)
パイロット状況:頭部に軽い裂傷、左肩に軽い打撲、ユーゼスに対する不信
機体状況:胸部装甲に大きなヒビ、機体全体に無数の傷(戦闘に異常なし)
背面ブースター軽微の損傷(戦闘に異常なし)、背面右上右下の翼に大きな歪み
現在位置:G-6南部
第一行動方針:バーニィとのケリを付ける
第ニ行動方針:アキトの保護
第三行動方針:首輪の入手
第四行動方針:ネゴシエイターと接触する
第五行動方針:信頼できる仲間を集める
最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)
備考1:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています
備考2:謎の薬を1錠所持】
【テンカワ・アキト 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦IMPACT)
パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態
機体状態:胸部に軽度の損傷。3連マシンキャノン2発消費、スクエアクレイモア2発消費
現在位置:G-6南部
第一行動方針:キョウスケに情報を提供して同行する
第二行動方針:ガウルンの首を取る
最終行動方針:ユリカを生き返らせる
備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
備考2:謎の薬を4錠所持】
【ベガ 搭乗機体:なし
パイロット状態:死亡】
【残り22人】
【二日目6:35】
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