157話B「判り合える心も 判り合えない心も」
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時間は少し遡る。医務室を後にした甲児は、急ぎ通路を駆けていた。
右手と左手に何かを持つ仕草。その上で口を動かしたのだ。あの男が要求する物は一つしかない。
あの男は半日以上も機体の中に閉じ込められ眠っていたのだ。それを要求するのも無理もない。
それに直前のあの様子に甲児は確信の念を固める。脳みそをフル稼働させてた甲児が間違いないと結論付けたその答えは――
「待ってろよ! 今、美味しい食い物をたらふく持ってってやるからなッ!!」
食べ物だった。甲児の理屈はこうだ。
日本人にとって右手とは箸を持つ手に他ならず、左手はすなわちお椀を持つ手を意味する。
動かした口は物を租借する動作を表しているに違いない。
一部の隙もないこの理論を駄目押ししているのは、直前の男の様子である。
あの熱いスープを一飲みに飲み干したのだ。よほど腹が減っているに違いない。
ならば何か美味しいものを食べさせてあげようと言うのが、善人たる甲児の理屈である。
そこで最初に足が向けたのが今朝の団欒を過ごした和室だったのだが、よくよく考えるとあのときの朝食はみんなで食べつくしてしまった。
唯一残っているのはシャギアと取り合い、最終的にはゴミ箱に捨てられた厚焼き玉子だけ。
と言うわけで、あれはもったいない事をしたなと思いながら、和室はスルー。
次に思いつくのは当然食堂だ。
地球から火星への往復にも耐えられる貯蔵量を誇り、且つナデシコクルーの多種多様な注文にも対応できるように設置されたその冷蔵庫。
それは食材の宝庫と言っても過言ではない。
唯一の欠点は、プロの料理人が在籍する戦艦故に、そのまま食べられる物よりも食材が収められているということだろうか。
一応のぞいてみたが、甲児に調理する気ははなからなし。戦利品のリンゴを齧りつつ次なる目的地へGO!!
和室も食堂もダメとなれば、あと思いつくのはブリッジ。
目当ては支給品袋。そこにはシャギア・甲児・ヒメとあの男4人分が置かれている。
ブリッジの気密戸を潜りるとさっそく目的のものを見つけた。リンゴを口にくわえ、両の手で紐を解くと中をがさごそと漁っていく。
自分のものとシャギアのものを漁り終えたが、碌な食べ物がない。続けてあの男の荷物に手をつける。
やっぱり碌な物がない。
となると、残されているのはヒメの荷物。
何かこう女の子の荷物を漁るのは、いけないことをしているようで(実際しているのだが)ドキドキしてくる。
ゴクリと生唾を飲み下す。周囲を必要以上に見回し、そ〜っと手を伸ばそうとしてそれに気づいた。
ブリッジの外。モニターに大きく映し出されているのは鋭角に尖った二つの巨大な目。
それがブリッジを覗き込んでいる。
呆気に取られてポロリとくわえていたリンゴが床に落ちる。
一拍遅れてようやく動き出した頭が咄嗟に思い浮かべたのは、敵の一字のみ。直感的に思い浮かべたそれを疑う暇もなく行動に移った。
コンソールに齧り付き、IFSを通じて甲児の意思がオモイカネに伝わる。そして、甲児の叫びと同時に――
「これでも喰らえ! グラビティーブラストオオォォォォオオオオオオオ!!!!!」
重力の荒波は放たれた。まるで見当はずれな勘違いと共に……。
◆
結果から言おう。そのグラビディブラストの一撃は戦端を開くには到らなかった。
事の流れはこうだ。
今から二十分程前、ナデシコの姿を確認したブンドルは近づきつつ通信を入れた。
しかし、折り悪くブリッジは留守であり、またその他の機体のいずれにも応答はなかった。
応答も攻撃もないことを怪しみつつ、ブンドルは接近を続ける。そしてそのままナデシコの間近まで来てしまったのだ。
周囲を飛び回りつつ無人か、と思わないでもなかったが、それにしては甲板に係留されている機体の数が多い。
加えて、アムロから聞いているガロードの機体の特徴に一致する機体もあった。
勝手に艦内に侵入するわけにもいかず応答のないまま待つこと十五分。
痺れを切らしたブンドルは本当に無人か、とサイバスターでブリッジを覗き込んでいたのである。
すると不意に放たれたのが先ほどのグラビティブラストの一撃である。
その一撃は位置的な関係によってサイバスターに直撃することはなく街を焦がしただけのはた迷惑な結果に終わった。
その直後、ブリッジにガロードが駆けつけたことによって事なきを得たのである。
以上がここまでの流れ、そして今――
「手短に済ませたい。この艦の航路は?」
ブンドルはサイバスターに、ガロード・シャギア・甲児の三人はブリッジにいる形で話し合いが始まっていた。
「細かくは決まっていないが、北東の四ブロックで回遊行動に移るつもりだ」
「そうか……なら、私と行き先が異なるな。私は今すぐと言うわけでもないが基地を目指している。航路を曲げれないか?」
「基地に、か?」
「ああ、そこでアムロとの合流を予定している」
ふむ、と考える素振りを見せたシャギアの横でガロードは、それはまずいと思った。
アムロとシャギアが顔を会わせればどうなるのか、良い方に転がるとはとても思えない。
だから話を反らそうとしたその矢先に――
「悪いが無理だな」
シャギアが口を開いた。
「四ブロックでの回遊行動は特に目的があってのことではない。だが、我々はそこで別働隊との合流を予定している」
「別働隊?」
「私の弟オルバ=フロストとフェステニア=ミューズの二名だ」
「そうか……ならばガロード、アムロに代わって迎えに来た。悪いがついて来てくれ」
「へっ? 俺??」
突然振られた言葉に素っ頓狂な声が上がる。そんな様子に構うことなくブンドルは続けていく。
「基地に勝ち残りを狙う者が複数いた場合、その者達の腕次第では私の手に余ることも考えられる。同行する仲間が必要だ」
「無理無理無理……絶対無理ッ!!」
「何故だ?」
「何故って……」
シャギアからは目は離せない。本当に信用できると思えるようになるまで、目を離さないと決めていた。
だからと言って甲児の前でそれを言うわけにもいかない。だからもう一つの理由、それだけを口にする。
「お姉さんがまだ眠っているんだ。それを置いては行けない。
それに、目を覚ましたときに知らない人ばかりだと、きっとあの人は一暴れすると思う。
だから俺の代わりに甲児、ブンドルさんについて行ってくれないか?」
「えっ? 俺??」
ほとんど同じ言葉で、今度は甲児が素っ頓狂な声を上げる番だった。しかし、そこに横から声が割り込む。
「無理だ。ガロード、甲児君には機体がない。甲板に係留している緑のMSがあるとお前は思うだろうが、あれは戦力にならない。
MSと言うよりも重機と理解したほうがいいくらいの代物だ」
「俺の機体――ストレーガを甲児に貸すよ。代わりにシャギア、ナデシコの航路を曲げてB-1にちょっとよってくれないか?
オルバとの合流も今すぐって訳でもないんだろ? 機体を一つ隠してる。それまでは……お姉さんの機体でも借りてるさ」
「話は纏まったようだな。甲児君、宜しく頼む」
「おおよ! ブンドルさん、この兜甲児様が加わったからには大船に乗った気でいてくれ!!」
「期待しているよ。それとここまでのナデシコの話、道中聞かせてもらうとしよう」
威勢良く答えた甲児に、余裕を持った微笑で答えたブンドルとの通信がそこで切れる。
それを合図に人々は動き出し、俄にナデシコが出発の喧騒に包まれて、賑やかさを増していく。
そして、程なくサイバスターと共に艦を離れたストレーガの姿が北東の空に消えていった。
それを見送った戦艦ナデシコは航路を南西に取る。そうして長きに渡り根城にしていた南部市街地を離れ始めていった。
【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状態:主催者に対する怒り、疲労(主に精神面)
機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持
現在位置:D-8北西部
第一行動方針:他の参加者との接触
第二行動方針:次の放送までに基地へ向かう
第三行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す
第四行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊
最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
空間の綻びを認識
ガウルンを危険人物として認識
操者候補の一人としてカミーユに興味】
【兜甲児 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
パイロット状態:良好
機体状態:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)
現在位置:D-8北西部
第一行動方針:ブンドルに同行
第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
最終行動方針:アインストたちを倒す 】
【ガロード・ラン 搭乗機体:なし
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状況:なし
現在位置:C-8南西部(ナデシコブリッジ)
第一行動方針:シャギアを見張る
第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
最終行動方針:ティファの元に生還】
【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好、テニアを警戒
機体状態:EN55%、各部に損傷
現在位置:C-8南西部(ナデシコブリッジ)
第一行動方針:首輪の解析を試みる
第二行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
第三行動方針:意に沿わぬ人間は排除
最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。
備考2:首輪を所持】
一方その頃医務室では――
「甲児君、遅いね。紙とペンを探してどこまでいったのかな……」
「……」
甲児の帰りを待ちわびている人達がいた。
【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:良好、ナデシコの通信士
機体状態:EN90%、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル90%消耗
現在位置:C-8南西部(ナデシコ医務室)
第一行動方針:バサラを助ける
第二行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行
最終行動方針:主催者と話し合う
備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容
備考2:ナデシコ甲板に旧ザク・真ゲッター・ヴァイクラン係留中】
【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
パイロット状況:神経圧迫により発声不可
機体状況:MS形態
落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
現在位置:C-8南西部(ナデシコ医務室)
第一行動方針:紙とペン……
最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる
備考:自分の声が出なくなったことに気付きました】
【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
パイロット状態:気絶中
機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
現在位置:C-8南西部(ナデシコ医務室)
第一行動方針:勇の捜索と撃破
第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】
【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
パイロット状態:パイロットなし
機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている
現在位置:C-8南西部(ナデシコ格納庫内)】
【旧ザク(機動戦士ガンダム)
パイロット状態:パイロットなし
機体状態:良好
現在位置:C-8南西部(ナデシコ甲板) 】
【二日目9:10】
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