161話C「生き残る罪」
◆7vhi1CrLM6
ベルゲルミルが瓦礫の廃墟から上空へ。ディバリウムもまた徐々に北へ。動き始めたその瞬間――
「逃がさん……憎しみ合う世界を広げる者達……」
――獲物が掛かった。
位置取りは地上に蒼カブト、上空にテニア。自身はその中間。
小火器類の火線など物ともせずに蒼カブトが、下から上へと間合いを詰めてくる。そんなことは先刻承知。
そして、収束率を上げた大火力の攻撃では容易に捉えられないことも、だ。
必要なのはこいつ相手に撤退するだけの足止めを喰らわせられる攻撃。その条件は威力と範囲を兼ね備えていること。
距離を冷静に測る。あと半秒引き寄せて――今だ。
ディバリウムの主兵装ゲルーシュ。
それは、溜め込んだエネルギーを用途に応じて三種類に使い分けられるMAP兵器である。
一つは、収束率を高め、射程距離と高い貫通力を備え、直線上に撃ち出されるゲルーシュ・エハッド。
例えるならばそれは、巨大なビーム砲。
一つは、針状の散弾を扇状に散布し、一撃一撃は軽いながらもそれを補って余りある無数の弾数で敵を砕くゲルーシュ・シュナイム。
例えるならばそれは、ショットガンの一撃。
そして、このとき使用したのはそのどちらでもない最後の一つ――ゲルーシュ・シュロシャー。
その特徴は、自機を中心にして全周囲に向かって撃ち出す球状の効果範囲と貫通力はないながらもその爆発による破壊力。
例えるならばそれは、一個の爆弾。
格闘武器どころか手足すら持たないディバリウムにとってこの兵装は言わば奥の手であり、最後の手段と言える。
それを使う。射程距離の奥深くまで誘き寄せた今、回避は不可能。耐える他以外に奴が生き残る道はない。
溜め込まれたエネルギーを開放。
自機を中心に蒼白い雷のような光球が瞬く間に膨れ上がり、蒼カブトを包み込み、爆ぜた。
爆煙が立ち込め、一拍遅れて発生した圧縮空気の衝撃波はそれを吹き飛ばす。
その中心でホンの僅かな時間ディバリウムの動きが固まる。
効果範囲と破壊力。その性能と引き換えに三種のゲルーシュの中でも最も多くのエネルギーを必要とするこの兵装。
この硬直はその消費の大きさ故にだ。
爆発に押しやられて地表に沈んだとは言え、未だに蒼カブトは健在。分かっていたことだ。
幾ら威力があろうとも表層的な破壊力しか持たない兵装では、決定打にはならない。
ビーム・コートを突き抜け、装甲を溶かしたとしてもそこまでだ。直ぐに回復する。
そして、回復を待つほどこの敵は悠長ではない。こちらの復帰の方が早いとは言え撤退するには不十分な足止め。
だから、だ。だから後一手。撤退の為に必要だ。それを行なうのが――
「テニア、任せた!」
――彼女だ。
空中で動きの硬直したディバリウムの更に上空。そこに佇むベルゲルミルの双眸が翡翠の色に輝く。
同時に同じ色を光球がマシンナリーライフルから、撃ち出された。
それらが殺到する先は蒼カブトとその周辺。その狙いは――
「生き埋めになるのがどれだけ怖いか教えてやる!!」
――地盤破壊。そう、D-7地区の市街地と同じ地下空間を持つここなら、それが可能。
無論、無敵戦艦ダイが起こしたものほど大規模なものは不可能だ。だが、機動兵器一機を地下に突き落す程度なら、出来る。
蒼カブトの周辺地盤が穿たれ亀裂が奔る。同時に散布していたマシンセルが活動を開始。地表面の構造を破壊する。
穴が空く。崩壊する様に崩れていく。そして、撃ち付けたマシンナリーライフルの光球に押されて、蒼カブトは地中深くへと堕ちて行った。
間髪いれずに瓦礫の山を崩し、穴を塞ぐ。
ゲルーシュ・シュロシャーの一撃から、地中に堕とし瓦礫で穴を塞ぐまで、実にこの間僅か2秒。
穴が塞がれた瞬間、上空のベルゲルミルが全速で離脱を開始。ほぼ同時にシステムが回復したディバリウムも離脱に移る。
「なっ!?」
移ったはずだった。
ディバリウムを中心に奇妙な力場が発生している。陰陽紋を模ったかのようなその空間に固定され、動くに動けない。
周囲には円周上に等間隔で設置された六つの勾玉。どこかで見たことがある。
そう、これは確か――通信?
「オルバ、あんた甘いんだよ。アタシのことを信じてなかった癖に、始末しようとしなかった。
何故、自分がって顔してるね。自分だけは大丈夫。死なない。殺されない。そう思ってた? ほんと、呑気だね。
騙し合いはアタシの勝ち。不思議だね。追い詰められてたのはアタシなのにさ。
残念だけど、あんたにナデシコに戻られるとアタシが困るの。だからここで――」
「テニア、貴様ああぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!」
絶叫。餌にされた。テニアが安全に逃げ切るためのスケープゴート。
今更気づいてももう遅い。離脱できるタイミングは逸した。間もなく奴が戻ってくる。
それに引き換えこちらは、六つの勾玉によって空間に固定され、身動きが取れない。
「――アタシの捨て駒になって死んじゃいな。じゃね〜」
通信が切れる。そして次の瞬間、赤黒い光がディバリウムを包み込んだ。
――大出力のビーム兵器……そんな物を使う素振りは今まで。
六つの勾玉が散り散りになり拘束が解かれる。しかし、今のディバリウムに自由に動き回る余裕はない。
赤黒い奔流の只中、抗うだけで精一杯なのだ。
そして、その奔流が途切れたとき、蒼カブトは間近に迫っていた。迅い。避けられない。
何処で拾ってきたのか、左腕には巨大な黒いライフル。
オルバの与り知らぬことだが、その黒いライフルの名はディバイデッド・ライフルという。
それはメディウス・ロクスの第一形態における主兵装。
大出力のビーム兵器の零距離射撃にも耐えるその強固なつくりは、近接戦闘に置いての打撃武器にも成り得る代物。
本体が第二形態に移行した際に規格が合わず必要のなくなったそれは、地下に撃ち捨てられていた。
それを直に叩きつけられて機体の平衝を失う。ぐらつき、次の瞬間追撃を受けて弾き飛ばされる。
それで終わりではない。追いすがられる。一瞬で空いた距離は不意になり、取り付かれた。
「勝利……敗北……そこに意味はない。破壊されるか……創り出されるか、それ……だけだ。
そしてお前は……死ねッ!!」
コックピットの上方、砕けて欠けた全周囲モニターのその向こうで、黒いライフルを構える巨人の姿が、直に見えた。
「噛み砕き――」
ディバイデッド・ライフルが、ディバリウムの抉れた中央部に叩きつけられる。
強引に侵入してきたそれにコックピットの上半分は完全に砕け散り、砲口が間近に突きつけられた。
「――撃ち貫く」
目と鼻のすぐ先、ホンの数十センチ上で、赤黒い光が灯っていく。地獄の業火のようなそれが見えた。
両眼が見開かれ、瞳が恐怖に揺れ動き、怯えが奔り、そして次の瞬間――
(助けて、兄さん)
――オルバの体は蒸発し永遠にこの世から消え失せ、後に残ったのは狂った男の笑い声だけだった。
◆
主を失ったディバリウムが爆ぜる轟音が、僅かに聞こえてきた。
舌打ちを一つ。もう少し粘るものだとばかり思っていた。
三々五々に戻ってくる勾玉を回収しつつ空域からの離脱を急ぐ。
「あ〜あ、基地の設備壊し損ねちゃった。念のため壊すつもりだったのに……」
そうふてくされた様にぼやきつつも、実はそれ程気にしていない。
あの狂った男がいる限り、そう易々と技術者の手に渡ることはないだろう。
それよりも気を払わなければならないのはこの先だ。
どこかに都合のいいお人好しでも転がってない限り、暫くは単独行動。
オルバやムサシのような盾がいないのだ。気が抜けない。
そして、北上しナデシコとの合流を優先する。それは出来るだけ早く行なわなければならない。
単独行動の危険性だけが問題ではない。合流が遅れれば遅れた分だけ、ナデシコを崩壊させる機会が失われていく。
「どんな顔してあいつらの前に戻ろうかな?」
怒り狂った顔がいいだろうか? 泣き腫らした顔がいいだろうか? 涙枯れ果てて茫然自失ってのもいいかもしれない。
とにかく、立ち回りは今からでも考えておくべきだろう。
そして、気をつけるべきはシャギア。疑われている様子は今の所ない。
だが、オルバに信用されてなかったのだ。念を入れて兄であるシャギアにも信用されてないと見たほうがいい。
伸びを大きく一つ。凝り固まった筋肉をほぐし、両頬を叩く。
気合を入れろ、テニア。ここまでも大変だったけど、本当に大変なのはこれから。
「さぁ、忙しくなるぞー!!」
【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ゲシュペンストMkV(スーパーロボット大戦 OG2)
パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染
機体状況:アインスト化。ディバイデッド・ライフルを所持。
現在位置:G-6基地跡地
第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
最終行動方針:???
備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
備考2:ゲシュペンストMkVの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
ただしアインスト化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
実弾装備はアインストの生体部品で生成可能。
胸部中央に赤い宝玉が出現】
【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:本来の精神状態とはかけ離れているものの、感情的には安定
機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、ガンポッドを装備
EN80%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
現在位置:G-5南部
第一行動方針:ナデシコの面々に取り入る
第二行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
第三行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物、及び技術者を優先)
最終行動方針:優勝
備考1:甲児・比瑪・シャギア、いずれ殺す気です
備考2:首輪を所持しています】
【オルバ・フロスト搭乗機体:ディバリウム(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:死亡
機体状態:爆散 】
【残り20人】
【二日目9:30】
NEXT「最後まで掴みたいもの」
BACK「すべて、撃ち貫くのみ」
(ALL/分割版)
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