獲物の旅
◆VvWRRU0SzU
無人の空をバルキリー――VF-22Sが往く。
胸の中には言葉にできない想いが渦巻いている。だが、それを吐き出す相手がいない。
カミーユ・ビダンは一人だった。
思えばここに来てから一人でいることは少なかった。
最初に遭遇した人物はひどく好戦的で、追い詰められたところをゼクス・マーキスに助けられた。
その後マサキ、カズイと出会い、ブンドルという男とすれ違い。
そしてベガと、ユーゼスと、そしてキョウスケと巡り逢った。
信頼していたクワトロ――否、シャア・アズナブルももういない。
孤立無援の状況で、それでも少年は諦めてはいなかった。
キョウスケから託された役目を果たすこと。ユーゼスやアキトといった戦いを拡げるものを討つこと。そして生きて帰ることを。
しかしそんな意気込みとは裏腹に、心身に蓄積した疲労は無視できないものだった。
殺し合いという常ならぬ事態の空気が、戦闘の緊張が、過大なストレスが。重しとなって体を蝕む。
基地を離脱した時からフルスロットルでバルキリーを操縦し続けていたカミーユの意識は限界に達しようとしていた。
目に入っているはずの計器が示す数値を認識できない。ガクンと、震動。
ジェネレーターが過熱、機体保持のためAIがリミッターをかけ出力が一気に落ちる。
立て直そうとした時には既に遅く、VF-22Sは森林地帯へと落下していった。
震える視界の中、全力で逆噴射をかける。
衝撃。
減速は成功したようだ。地表に落着、勢いのままに木々をなぎ倒すVF-22S。
シェイカーのように攪拌されたそのコックピットで、カミーユの意識は既になく。
森は再び、静寂で満たされた。
□
「あー、お腹空いたなー。もうお昼ご飯の時間かぁ……。ナデシコに行けば食べるものあるかなぁ」
G-3、森林地帯。
オルバを生贄に捧げ基地からまんまと脱出したフェステニア・ミューズはナデシコと合流すべく一路北へ急いでいた。
思い出す、あの狂った男。あんな危険人物が基地にいることは予想外だったが、おかげで労せずオルバ・フロストを始末できた。
当面の障害を排除できたとはいえ、優勝を達成するにはあの男をも排除する必要がある。
だが、一度戦った手ごたえからして、あの男は強い。本来自分が戦闘に向いてはいないということを差し引いても、単機では勝てる気がしない。
命などいらないと思わせる高速機動、空を覆うほど強大なディバリウムの攻撃を耐え抜く装甲。そしてこのベルゲルミルを遥かに超える再生能力。
あれを排除するためにも、ナデシコとの合流は急務。だが、彼らはオルバがいないことを疑問に思うだろう。
唯一こちらを疑っているかもしれないシャギア・フロストの存在が気がかりだが、言いくるめる案はあった。
このベルゲルミルの損傷を見れば、エネルギー兵装しか持たないディバリウム、つまりオルバとテニアが戦ったわけではないというのはすぐにわかる。
基地にとんでもない化け物がいる。オルバはテニアを逃がすために基地に残った。
まだ生きているはず、助けに行くべきだ――そんなシナリオを思い描く。
兜甲児と宇都宮比瑪は賛同するだろう。あの二人は単純というか、助けを求める手を振り払えないタイプだ。
シャギアとて弟の生死が不明であるならどうあっても助けに行こうとするだろう。
ロジャー・スミスに騙し討ちされたというのも考えた。
だが、もし実際に立ち会えばテニアはあの弁の立つ男にあっさりと論破され、窮地に陥ることは想像に難くない。
その点、あの狂った男なら問題ない。釈明どころか、そもそも話が通じないのだから。
ひとまずの方針をまとめ、周辺を見回す。
狙撃を警戒して低空を飛んでいるものの、この辺りに人はいないように思える。
これならスピードを出しても問題ないと判断し、上昇。
出力を上げようとしたところで、緑のカーペットが尾を引くように無残に引き裂かれているのが目に入った。
どうやら何かが墜落したらしい。ここで戦闘があったのだろうかと、テニアはベルゲルミルをその墜落現場まで移動させた。
「……嘘。嘘だ。どうして……」
そこに鎮座するはVF-22S・Sボーゲル2F。人類が銀河にまで生活圏を広げた世界で、とある天才が駆った最新鋭機。
見覚えがある。そう、この手で殺した親友、カティア・グリニャールに支給された機体。
そういえば破壊してはいなかったのだ。放置されていたそれを発見した誰かが使ってもおかしくはない――なら、誰が乗っている?
まさか、と顔が強張る。まさかカティアが?
彼女の名前は放送で呼ばれた。そんなはずはない、有り得ないと必死に自分に言い聞かせる。
VF-22Sに動きはない。墜落したと思わしき現場の状況から、おそらく気絶しているのだろう。あるいは、機体を捨てたか。
パイロットが乗っているのか、それとも無人なのかはこの位置からでは分からない。もっと接近しなければ。
これが違う機体であったなら、テニアは深く考えずに破壊しただろう。
だが、もし彼女が、カティアが生きているのだとしたら。撃てばもう一度、彼女を殺すことになる。
覚悟は決めたとはいえ辛くないわけはない。どんなときもメルアと三人、支え合って生きてきた大切な友達――家族だったのだから。
だから、確認しよう。テニアはそう決めた。
誰が乗っているか確認して、知らない誰かだったら利用する。知っている誰かだったら殺す。
そしてもし、乗っているのがカティアだったら――
やっぱり、もう一度殺そう。
結論から言えば、パイロットはカティアではなかった。
コンソールに突っ伏すように気を失っていたのは見知らぬ少年だった。おそらく、統夜と同年代。
外傷は特にないことから、地面に激突した衝撃で気絶したのだろうとテニアは推測した。
とりあえずコックピットから下ろし、横たえる。念のため少年のズボンからベルトを引き抜き、両手をきつく縛る。
次に支給された水を取りだし、蓋を開け豪快に少年の顔にぶちまけた。
「……ッ、ううっ……」
呻き声とともに、少年がよろよろと身を起こす。
軽く頭を振り、濡れた顔を拭こうとして、拘束された腕に気付く。
黙ってそれを見ていたテニアは、どこか安心したような、それでいて淋しいような気持ちを隠して話しかける。
「気がついた?」
「……ありがとうございます、テニアさん。助かりました」
「テニアでいいよ。カミーユ、か。女の子みたいな名前だね」
目覚めた少年と自己紹介を交わす。
テニアの言葉に少年――カミーユは軽く眉を顰めたが、それには触れず固められた腕を掲げる。
「警戒するのはわかるが、俺は戦いに乗っていない。これを解いてほしいんだが」
「そんなこと口で言われても信用なんかできないよ。アタシの質問に答えてくれたら考えてあげる」
カミーユはテニアを睨みつけるも、息をついて先を促す。ひとまず主導権は握れたようだ。
「わかった。何を聞きたいんだ?」
「とりあえず、そうだね。今まで会った人のことかな。あと、仲間がいるかどうか」
テニアにカミーユとの面識はなかったが、知り合いの中には接点を持った者がいるのかもしれない。
カミーユは存外素直に喋りだした。
「…アタシの知っている人はいないね。仲間もいない、か」
羅列された名前の中にはテニアの知る名はない。そして大半が既に死亡、残りは戦いに乗っている。
苦い顔で呟かれたユーゼスとアキトという名の男のことは注意を払う必要がある。
どうやら彼はナデシコやJアークといった集団のことも知らないようだ。
「じゃあ、次は君の番だ。俺は仲間を集めたいんだが……そう、集団になっている人達を知らないか?
Mr.ネゴシエイターと呼ばれていた人のことでもいい」
「……知らない。アタシが会った人は、もうみんな死んじゃったから」
(こいつもロジャー・スミスか。どこまでアタシを苦しめるのよ、あのカラス野郎……)
またもあの交渉人の名を聞き、イラつきが胸を満たす。
Jアークの面々はテニアを警戒しているだろう。
ロジャーとて先の交渉の場では中立を宣言していたが、それとてこちらを安心させるためのブラフに思える。
あいつは今この瞬間にも、テニアの悪評を振れ回っているかもしれないのだ。
この少年とロジャーを接触させるのは危険だと、カミーユを殺そうと決める。
基地の男を倒すには人手はあった方がいいのはわかっている。それでも、テニアはここでカミーユを逃がす気はなかった。
(アタシにカティアを思い出させたんだ。その機体といっしょに、跡形もなく粉々にしてやる)
腕を縛ったとはいえ、体格で勝るカミーユと素手でやり合って勝てるとは思えない。まして、おそらく警戒されているだろうから。
なら、安心させて背中から撃つ。
信頼した相手に撃たれる絶望はどれほどのものだろうか。カティアを殺した自分には、ためらう理由になどなり得ないが。
カミーユの腕を解放する。彼は腕をさすりながら、
「ありがとう。……ところで、他に聞きたいことがある。さっき仲間が死んだって言ったが、危険人物に心当たりがあるなら教えてくれないか?」
と言った。すぐに殺すのだから意味はないと思ったが、鬱憤を吐き出す捌け口にはなると思い直す。
「……Jアークって言う戦艦。キラってやつとソシエってやつ。あいつら、最初は協力しようって言ってきて、でも……騙されて、武蔵っていう仲間が殺されたんだ」
「戦艦? そんな強い力を持ってるのに、どうして……くそっ!」
吐き捨てるカミーユの顔には確かな怒りがあった。
さっきの情報交換の時の様子からして、カミーユは戦いに乗った者を積極的に倒そうとしているらしい。
利用したいところではあったが、この分ではテニアの行いを知れば即座に銃を向けてくるだろう。
「それに、基地だね。なんかとんでもない化け物がいて、仲間が……殺されたんだ」
それを聞いたカミーユの顔から一切の表情が消え、「そうか」とだけ言った。
この反応は気になったものの、そろそろ移動しなければナデシコと合流し損なう。話を切り上げ、ベルゲルミルへと足を向ける。
「テニア。俺と一緒に行かないか?」
「うん、こっちからお願いするよ、カミーユ」
うまくいった、と吊り上がりそうになる口元を押さえた。カミーユがVF-22Sに乗り込むのを見届け、ベルゲルミルへと戻る。
やがてVF-22Sとベルゲルミルが浮上する。
片腕のないことを理由に、カミーユに先行してもらう旨を告げた。あとは隙を見て撃つだけだ。
10分ほど北へ向かって飛んだところで、そろそろかな、と機を見計らう。
この10分の間、VF-22Sに特にこちらを警戒するそぶりは見られなかった。今なら容易く破壊できる自信がある。
マシンナリーライフル、シックス・スレイヴをスタンバイ。初撃を外してもカバーできるように――
「ところでテニア」
どのように撃てば確実かと悩んでいたところで、通信。ずっと黙っていたのになんてタイミングの悪い、と舌打ちする。
「……何?」
「さっき、聞き忘れたことがあったんだ」
声色は特に不審なところはない。落ち着いている……いや、穏やか過ぎる?
「今までに会った人物はみんな死んだんだよな?」
「そう、だけど。何かおかしい?」
「いや、それ自体は別に。ただ、気になるんだ……どうして、君がこのバルキリーのものと同じガンポッドを持っているのかが、さ」
言われ、腰のアタッチメントに繋がったままの銃の存在を思い出す。さっき飛び立つときに見られていたのだろう。
迂闊だった! 左腕を落とされて使わなくなったから、すっかりこれのことを忘れていた!
頭をフル回転させる。これはまだ致命的なミスじゃない、どうにでも言い繕うことはできる……!
「あ、アタシはその機体を見たことがあったんだ。そのときは誰も乗ってなかったけど、そう、だからこれを借りたんだよ!」
「なんだ、そうか。いや、これを見つけたときに一緒にいた……やつが、変なことを言ってたんだ」
息を呑んだ。まずい、何かとてもヤバい。あの時見られていた訳はないが、それでもこれ以上言わせてはいけない気がする。
焦るテニアに構わずカミーユは続ける。
「この機体は無傷で放置されていた。スペックは大したものだ、これを捨てるなんてとんでもない。
俺は仲間の機体に同乗したんじゃないかって言ったんだが、そいつはこう言った。
『元々この機体を支給された人は、協力を持ちかけてきた仲間に裏切られたんだろう』って。
見せしめに殺された女の人と、きょ……多分、その恋人だった男性がいただろう。
つまり元々知り合いだった人たちが連れてこられているってこともあるんだ。もし被害者と加害者がそんな関係だったら、信用するのも当たり前だよな」
「か、カミーユ、あのさ、」
「そう言えばテニア。俺、あそこでお前を見た覚えがあるんだ。
主催者に喰ってかかって、隣にいた金髪の女の子に止められたよな。その子もお前をテニアって呼んでた」
VF-22Sが一瞬にして反転。そして人型に変形する。
そうと気づいた時には既に、撃つ隙はなくなっていた。
「ああ、そうそう。この機体の近くには墓があって、女の子が埋められていたそうなんだ。
それも、頭を潰された状態で。たぶん機動兵器の手で握り潰されたんだろう」
さざ波のように穏やかだった声は、いつしか冷たい刃のように感じられた。それが首筋に当てられている――
「その子がパイロットだったんだろうな。首輪もなかったんだから、そのために殺したんだろう。
惨いことをするやつがいる。許せない……許さない、絶対に」
淡々と呟かれる声。もはや口を挟めないほど、目の前の少年の放つプレッシャーは膨れ上がっている。
「なあ、テニア」
「……な、何よ」
「どうしてなんだろうな。どうして、
お 前 の 機 体 の 指 に は 、血 が つ い て い る ん だ?」
……絶叫とともに、トリガーを引いた。
放たれた光弾。だがVF-22Sはそれを予測していたかのように易々と回避し、流れるような動きで携えていた長大なライフルを構えた。
ライフルが発射される前にシックス・スレイヴを解き放つ。
別々の軌道を描く六つの勾玉。VF-22Sの予測されうる回避コースを塞ぐように展開したそれを――
すべて、撃墜された。
VF-22Sがライフルを引き戻し、代わりにガンポッドを構えた。
スレイヴが取り囲んだと思った瞬間、VF-22Sは上半身を折り畳んだ。戦闘機に足が生えたようなシルエット。
そして全方位から迫る勾玉を、似たものと戦った経験でもあるのか慣れた様子で次々とかわしていく。
通り過ぎたスレイヴがもう一度仕掛けるべく反転する。その動きを止まった一瞬を見計らったように、VF-22Sが独楽のように激しく回転した。
その状態から火線が奔る。銃弾は吸い込まれるように全てのスレイヴへと命中、爆散させた。
あんな回転の中でも一つとして狙いを外さない。ヤバい、こいつの腕は本物だ。
拡がる爆風の中を、人型でもさっきの異形でもないものが突き抜けてきた。
戦闘機。変形に要する時間が短すぎる!
急速に接近してくるVF-22S。消し飛ぶように彼我の距離が縮まる。
テニアは恐慌を来たし、自分でもよく聞き取れない声を吐き出しつつ機体を後退させる。
マシンセルを散布することも忘れない。胴体の再生は遅れるが、そんなことを考えていられる状況ではない。
VF-22Sは霧のようなナノマシンに突入する手前で足を振り出し急停止した。
突っ込んでいればそれなりのダメージはあっただろうに、尋常じゃない勘働きだ。
しかし僅かとは言え時間は稼げた。少しでも重量を減らすためガンポッドを投棄し、全速で離脱を試みる。
急速に敵機との差が開く――追って来ない?
理由はどうあれチャンスだ。テニアは脇目も振らず逃走を開始した。
強烈なGに耐えながら20分ほど全速で飛び続け、森林を抜けたあたりで追随する機影はなく。振り切れたと確信して機体を止めた。
息をつくと同時に、一気に吐き気が込み上げてきた。長時間の全速移動だけでなく、先の戦闘のプレッシャーのせいもあるだろう。
テニアは機体を手頃な岩山の陰に隠し、転げ落ちるようにコックピットから出る。
地面に四つん這いになり、吐いた。
朝食を摂ったのは4時間ほど前だ。大喰らいなテニアの胃は優秀なのかほぼ消化を終えていて、固形物の代わりに胃液だけが出た。
酸っぱい味が口腔を満たし、鼻の奥がひきつる。気持ち悪さだけが加速する。
吐瀉物で濡れた地面がとても汚く見えて、目を逸らす。2分ほどうずくまって、ようやく吐き気が治まり顔を上げた。
鏡を見たらさぞげっそりしているんだろうな、と思った。
水で口を洗い、気分が落ち着いてきたのでベルゲルミルへ戻る。
まず損傷をチェックしなければ。頬を叩き無理やりにでも気合を入れる。
ガンポッドの損失はさほど問題ではない。どうせ片腕がないのでは使えないのだから。
それよりも、シックス・スレイヴが撃墜されたのは痛い。機体の修復を後回しにしてマシンセルを集中させる。
まともに戦えないのでは動く事も危険だ。まずはどうにか自衛できるレベルまで、機体を修復させる。
ナデシコとの合流は遅れるが、ここはもう北東の4ブロックにほど近い。待っていれば向こうから来てくれるかもしれない。
一通りの設定を終えて、これからどうすべきかを考える。
カミーユを殺すつもりが、秘密を看破され逆に尻尾を巻いて逃げ去る始末。
これでテニアが確実に戦いに乗っていることどころか、親友を手にかけてまで優勝しようとする外道だということまで知られてしまった。
カミーユがこの先誰かと接触すれば、そこから噂はどこまでも広がるだろう。
邪魔なオルバを排除できて、ナデシコを利用して。すべてが上手くいっていたのに、今や追い詰められているのはテニアだ。
狩る側から、狩られる側へ。今生き残っている者全員が、テニアを追いたてる――
「嫌だ……嫌だッ! アタシは生きて帰るんだ! こんなところで死にたくなんかないッ!」
恐怖が重い泥のように絡みついてくる。こうなっては、もはや一人でいることは逆に危険だ。
思いつくのはやはりナデシコの威容、兜甲児や宇都宮比瑪の顔。彼らなら自分の盾になってくれるはずだ。
彼らをどうにかしてJアークやカミーユ、そしてガウルンといった敵と潰し合わせる。
できるかどうかではなく、やらなければこの先生きのこれない。
想いを寄せる少年、統夜。彼もまだ生き残っている。彼がカミーユと接触する前に会い、事情を隠して取り入らねばならない。
身も知らぬ少年の言葉と、共に戦ったテニアの言うこと。さすがに疑われはしないだろう。
急がなければ。自らを囲う鎖が完全にこの身の自由を奪う前に、逆転の一手を打たねば――
焦るテニアの思いに応えることなく、マシンセルの修復は遅々としたものだった。
【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:疲労 激しい焦燥
機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中)
EN40%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
現在位置:G-3 北部
第一行動方針:ナデシコの面々に取り入り、敵を排除し尽くした後に裏切る
第二行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
第三行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物、及び技術者を優先)
最終行動方針:優勝
備考1:甲児・比瑪・シャギア、いずれ殺す気です
備考2:首輪を所持しています】
□
「……撤退したか」
レーダーの中、急速に遠ざかっていくベルゲルミルの反応を目で追いつつカミーユは息を吐いた。
危なかった。あの様子ではやはりこちらを殺そうとしていたのだろう。
気づくのがもう少し遅ければ、カミーユはVF-22Sとともにこの世界から消え去っていたはずだ。
ユーゼスの言っていたことは悔しいが正しかった。テニアの機体ベルゲルミルは、20m前後の機体、あの忠告とも一致する。
この機体の近くに埋葬されていた遺体の頭部が潰されていた、という情報を思い出し。
それとなくベルゲルミルの指を確認してみればまさに動かぬ証拠があった。
ただ、それだけでは確実とは言い難い。彼女がやったのではなく、彼女の前に乗っていた者がやった。
ユーゼスのように口の回る者ならそんな風に切り抜けただろう。
だからこそ、こちらが疑っているという事実を突きつけ対応を見た。すると予想通り攻撃してきた、黒だというのは確定だ。
ここで仕留めたいところではあったものの、敵機のファンネルと思しきものの迎撃でVF-22Sの残り僅かだった弾薬・エネルギーはほぼ枯渇した。
オクスタン・ライフルはまだ使用できるものの、敵機もまた余力を隠していたようだ。
あの霧のようなもの。構わず突入しようとした瞬間、唐突に悪寒を感じ無意識に機体を止めていた。
この世界にはモビルスーツの概念を遥かに超えた未知のテクノロジーが散乱している。あれもまた、そういったものの一部だったのかもしれない。
カミーユは追わなかったのではなく、追えなかったのだ。現状では倒し切れる保証がなかったから。
ともあれ、有益なこともあった。
気絶した自分を起こしてくれたこと。気を失っていたのは数時間であろうが、それでも少し気分は楽になった。
情報。彼女のもたらした情報は、どこまで信用できたものか。
Jアークという戦艦。キラ・ヤマト、ソシエ・ハイム。彼らが本当に戦いに乗っているかは分からないが、とりあえず警戒するに越したことはないだろう。
そして、基地だ。彼女の言う化け物……これの真偽については考えるまでもない。キョウスケ・ナンブ、アインストとなった男のことだろう。
やはりあの人は変わってしまったのだ。忌むべき主催者、その同族として。
歯を食い縛る。
倒さなければならない。これ以上誰かが犠牲になる前に、他ならぬカミーユが、この手で。
ベルゲルミルが放置していったガンポッドを回収し、針路を思案する。まずは補給をしなければ。
この機体が熱核タービンエンジンという、大気圏では燃料を必要とせずに航行できる機体で助かった。道すがら補給ポイントがあればいいのだが。
テニアは北へ逃げた。追撃は現時点では考慮の外。
南は当然、ない。基地へ向かうのは協力者が集まってからだ。
あとは東か西かだが、東に行って光の壁を通過し地図の反対側に出ても、その辺りにさしたる施設はない。
ならここから西。地図の中央、廃墟の都市に向かう。
誰かがいるかもしれない場所としては、森や山岳地帯よりは希望が持てる。
カミーユが接触し、今だ生き残っていて戦いに乗っていない者は……マサキとブンドルだ。
他には、最初の場所で主催者に真っ向から対立する姿勢を示していた黒スーツの交渉人。
できれば彼らと接触したいところだが、まだ生き残っているだろうか?
シャアの名が呼ばれたことに動揺し、放送を聞き逃したことが悔やまれる。
気がかりといえばもう一つ、禁止エリアだ。これまた聞き逃してしまっている。そうと知らずに突っ込んでしまっては目も当てられない。
とはいえ、機動兵器を扱う戦いを演出する以上、その戦闘の激しさから望まず禁止エリアを超えてしまうこともあるだろう。
そんなときのために、エリア侵入即爆発ということはないはずだ。警告機能くらいは備えているだろう。
エリアとエリアの境界を沿うように飛び、警告が聞こえてきたら隣のエリアに退避する。
もし禁止エリアが隣接していたら……お手上げだが、広く参加者が散らばる戦場でそんな不効率なことはしないだろう。
方針を決め、カミーユはVF-22Sを発進させる。
飛ぶように流れていく景色の中。しばらくは神経を擦り減らすことになるな、と嘆息した。
「せっかく休めたのに、また疲れるじゃないか……」
【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルU(マクロス7)
パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。精神が極度に不安定
機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾-残弾0 EN残量・火器群残弾ともに5% ガンポッド二挺所持
現在位置:F-4
第一行動方針:対主催戦力と接触し、仲間を集める (ロジャー・マサキ・ブンドル優先。Jアークは警戒)
第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
第三行動方針:遭遇すればテニアを討つ
最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】
【二日目 10:20】
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