173話C「破滅の足音」
◆7vhi1CrLM6

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「何やってるんですか、あなたは」

狭い通路の先で、アイビスに追いつくなりカミーユが抗議の声を上げた。
それに両手を合わせて「ごめんなさい」と謝る声を耳にしながら、しきりに左右を見回して逃げ出した甲児の姿を探す。
だが、どこかに隠れてしまったのか、姿が見当らない。

「アイビス、彼はどっちに?」
「ごめん……完全に見失ってしまって分からないんだ。だからキラは私と来て、格納庫と甲板を押さえておいたほうがいいと思う」
「なら、俺は艦内を回って探し出すよ。ブリッジも気になるけど、アムロさんとブンドルさんが残ってるから大丈夫だろうし」
「カミーユ、怪我してるんだから無理しないで」
「心配要らない。それより狙われるとしたらキラ、お前なんだからそっちこそ気をつけたほうがいい」
「大丈夫」
「じゃぁ、気をつけて」

そう言って二手に分かれる。
狭い艦内を駆けて、アイビスと共に格納庫に走りこんだとき、キラはそこに甲児の姿を見つけた。
逃げるもせず、機体に乗り込むわけでもなく仁王立ちしてる様子に若干の違和感を覚えながら、思わず身構える。
それを見てか目の前の甲児も身構えた。カミーユとの殴り合いで痛めた傷が、痛かった。

「アイビス、ブリッジに連絡を」

怪我をしていようがどうしようが、応援が駆けつけるまでは一人でどうにかするしかない、と覚悟を決めた瞬間――

「ちょっと待ちなよ、甲児。殴り合いをさせるために手を貸したんじゃないんだから。
 キラをナデシコに連れて行くんでしょ?」

赤毛の少女が怒りながらヅカヅカと甲児に詰め寄って行った。
そして、次の瞬間にはクルリと振り向いてキラに視線を合わせる。

「キラもストレーガに乗って。探してたんでしょ、ナデシコを」
「えっと、つまり彼の脱走劇は……」
「うん。ただのお芝居。何か気づいたら手伝う羽目になっててさ」

あっさりと言ってのけた少女を前に、何か一気に体の力が抜けた気がした。

「キラ・ヤマト、俺はお前のことが信用ならねぇ。でもなぁ、アイビスさんと俺の話し合いじゃ埒があかねぇんだ。
 キラが悪い。テニアが悪いってどっちも譲らねぇ。
 だからアイビスさんに手伝ってもらって、お前をナデシコに連れて行くことに決めたんだ。お前が本当に悪くないって言うのなら誤解を解いてみやがれ」

ああそういうことかとようやく納得がいった。
同時にちょっと前にブンドルに言われた『自分の犯した罪の精算を代理人に行なわせる』という言葉が、脳裏を過ぎる。
別にロジャーに罪の清算まで依頼したつもりはキラにはない。
だが、ロジャーに連れて来てもらおうというのはどこか甘い部分もあったのだろう。それを窘められたのだ。
それに、だ。それにもし自分が一人生身でナデシコに飛び込むことが、少しでも誠意となるのなら悪くはない。
そして、仲直りするのなら早いほうがいいに決まっている。だからこのときキラは、迷いなく一人でのナデシコ行きを決意した。

「分かった。ナデシコに行ってくるよ」

Jアークの甲板から飛び上がったストレーガが飛び上がり、宙に浮く。
一拍遅れて発進したネリー・ブレンを迎え、そして二機はバイタルグロウブの流れに乗ってその場から掻き消えた。
ただ彼らの信じる真実へと向かって、ひたすら真っ直ぐに。



【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN75%
       無数の微細な傷、装甲を損耗
 現在位置:E-2
 第一行動方針:ナデシコのキラの誤解を解く
 第二行動方針:協力者を集める
 第二行動方針:基地の確保
 最終行動方針:精一杯生き抜く
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【兜甲児 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状態:良好
 機体状態:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)
 現在位置:E-2
 第一行動方針:テニアが正しいことを証明する
 第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す 】

【キラ・ヤマト 搭乗機体:なし
 パイロット状態:健康、疲労(大) 全身に打撲
 現在位置:E-2
 第一行動方針:ナデシコ組と和解する
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪の解析(&マシンセルの確保)
 第四行動方針:生存者たちを集め、基地へ攻め入る
 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】



「全く。若い者達は俺達があれこれ考えるまでもなく自分で動き、道を切り拓いて行くものだな、ブンドル」
「そう悲観するほど君は歳を取ってはいないと思うが。時代を作っていくのは若者ならば、維持していくのが大人の務めだ。
 さて、私もユーゼスの動きが気がかりだ。彼らの後を追わせて貰うことにする」
「取り込み中のところ悪いが、一時間弱のものだが例の観測で興味深い結果が上がってきた」

「例の?」と発せられたブンドルの問いに「君もよく知っている」と返して、地図上のD-4地区を指差す。
そして、Jアークの端末を指し示した。
それで伝わったのだろう。盗聴を避けるためのタイピングでの会話が始まった。

『確かに空間の綻びは確認できるが、細かな状態を観測するのはこの距離では不可能だ』
『そうか……何となくでいい。場所の特定は?」
『不可能だ。D-4地区のどこかとしか言いようがない』
『何故だ? 綻びそのものは確認できたのだろう?」
『綻びの数が普通では考えられないほど多く、この距離では規模の違いが把握しきれない。
 出来ることならば、至近距離での観測か長期間に及ぶ観測が望ましい』

そう言って表示されたデータを一目見て、呻きを上げる。
表示されたのは綻びの観測ポイントと発生時刻。
D-4地区と言わず異常な数の綻びが観測されている中で、D-4地区は真っ黒だった。

『時間がないな』

時刻と発生件数を追っていけば嫌でも分かる。綻びの発生数が指数関数的に増大している。
それも周囲に拡がりながらだ。
異常な速度で綻んではその都度繕われる空間。遠からず生地に限界が来てD-4地区は崩壊する。
そして、それが呼び水となり、この空間そのものもいずれ。

『どれほどもつと思う?』
『データが不足しているが、このままの速度ならばまだ数日は大丈夫だろう』
『そうか……もう一つ。扉を開けられるタイムリミットは?』

扉を開けるということは、綻びを掻き回すことと同義。強引に綻びを、空間の傷口を広げるのだ。
それに耐えられるだけの強さを空間が持っている内に、全てをやらねばならない。だがその残された時間は――

『現時点では正確な判断はできないが、三十六時間以内には必ず迎えるだろう』



【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:健康、若干の疲労
 機体状態:EN40% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ  ビームサーベル一本破損
       頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾60% ビームライフル消失 ガンポッドを所持 
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:首輪の解析とD-4地区の空間観測
 第二行動方針:協力者を集める
 第三行動方針:マシンセルの確保
 第四行動方針:基地の確保
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
 備考2:ガウルン、ユーゼス、テニアを危険人物として認識
 備考3:首輪(エイジ)を一個所持
 備考4:空間の綻びを認識】

【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・Sボーゲル(マクロス7)
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大)
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾所持 EN40%   左肩の装甲破損
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:首輪の解析を行ないつつしばらくJアークに同行
 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第三行動方針:遭遇すればテニアを討つ(マシンセルを確保)
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】

【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好(主催者に対する怒りは沈静、精神面の疲労も持ち直している)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:甲児達の後を追う
 第二行動方針:E-1へ。可能ならユーゼスよりも早くナデシコと合流
 第三行動方針:マシンセルの確保
 第四行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す
 第五行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
 備考2:空間の綻びを認識
 備考3:ガウルン、ユーゼスを危険人物として認識
 備考4:操者候補の一人としてカミーユ、甲児、キラに興味
 備考5:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】

【Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%  
 現在位置:D-3南部
 備考1:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復
 備考2:D-4の空間観測を実行中。またその為一時的に現在地を固定
 備考3:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】

【二日目 13:15】


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