172話「膨れ上がる悪夢」
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静寂を保つ基地。
静寂を望むもの巣食う地で、蒼い昆虫王は立ち尽くす。
その心は、もはや始祖者・アインストの手中にあり、キョウスケ・ ナンブではない。
彼の者は、鋼鉄の棺の中、思考する。
考えるは、先ほどの戦闘。状況、戦況の推移を何度となく反芻。問題点を認識する。
さらなる選別のため、必要なことは何か。そのために欠けているものは何か。
足元に転がる始まりの地より外れた星の兵器を踏み潰す。脆い。しかし、一撃でしとめることができず。
逃げた兵器はけして機敏ではない。だが逃亡を許す結果となった。
結論――足りない。
力が、足りない。
攻撃力が足りない。
耐久力が足りない。
速力が足りない。
継続戦闘能力が足りない。高機動を維持するだけの推力が足らない。非実弾戦闘能力が足りない。
機体の強化に耐えうる素材が足りない。一撃の破壊力がまだ足りない。瞬発的な速度もまだ足りない。
特殊な防御手段が足りない。殲滅力が足りない。飛行能力がまったく足りない。攻撃の手段が足りない。
ディバイデッド・ライフルでは足りない。クレイモアだけでは足りない。スプリットミサイルでは足りない。
足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
では、どうればいいか?
「器」の知識と、欠けた我の力を検索する。
「器」の知識――闘いの記憶――より強大な力を獲得する手段――戦いの中の変化――進化。
欠けた我の力――原初よりの記憶――生存権を獲得する手段――銀河の中の変化――進化。
演算を完了。もっとも足りてないものであり、同時に多くの足りていないものを満たす事項を検出。
「器」は見ていた。生命力を変換し、より強力な力を引き出す瞬間を。
我は知る。今の我が持たず、尊大たる我が持つものを。
すなわち、存在力。 「器」の言葉から近時の概念を発見。
存在力≒質量。質量の増幅が、現状の力の取得のため最善と判断。
今の手足を呼び起こす。向かう先にあるものを確認。
次元連結機能を搭載する予定の試作機。操作部(コクピット)へ腕を伸ばす。操作部に介入――神経を配置。
輩(トモガラ)の移植を実行――失敗。現在の我をこれ以上分割することは不可能、眷属は精製できず。
当初の予定に従い、外部より直接的な強制起動を行う。神経の配置が予定よりも遅い。
予測を半刻へ変更。これにより理解。内部機構よりの侵攻――戦闘中は使用できない。非戦闘用技能。
非効率的行為の中断。戦闘体を分けることによる力の増大を諦める。
次策の実行――工場内へ。下降する肉体。失墜する鋼鉄。
暗い地の底にあるそれに腕を突き刺す。発電施設の中枢――集中管理所。
統括する場所から、指令を送る――全力を持って我へ供給せよ。
腕の機能と発電施設の本体との接続を確認。回路を繋ぐ。末端回路へ繋ぐ。中枢回路へ繋ぐ。
稲妻が、電気的な力が鋼鉄に収められる。形を持たない輝きを、質量へ変換。
銀河を塗りつぶすに足る力も、形になさねばほんの僅か。しかし、ひとたび物質となれば……
増大する。我の存在が増大する。我の質量が増大する。
人間はこの現象をこう呼ぶ――「ハイパー化」と。強念者がそれを行なう瞬間を「器」は見ていた。
「フフフ……ハハハハハハハハハハハハ」
我は取り戻す。正しく進化した力の本流。
一次元的には単純な倍加。二次元的にはの二乗。そして、三次元においては三乗。
膨れ上がる鋼鉄の肉体――鋼鉄の力。
激増する破壊力。激増する積載推進力。すべてが激増する。
しかし、突然停止。
「……?」
初期の一.二倍ほどで肥大化が終了。現段階ではまだ復讐者の乗る黒い進化の機体よりも小さい。
理由を思考。力の質量変化に異常――なし。次元を通して力の量――問題なし。
あらゆる機構が、問題なしと告げる。変化がない――理由不明。内部に原因なし。
「まだ……足らない」
唯一肥大化に足らないものを認識。それは、外的要因。肥大化――進化のために必須の存在。
外部からの刺激。環境の変化。「現在」進化の必要性がない。状況は変化しない。故に進化も促進しない。
「きっかけ」――特に「闘争」が必要。「闘争」――宇宙の平穏を乱す。誤った進化。
だが選別のためには「きっかけ」=「闘争」=「さらなる力」が必要。
現在の戦闘力を予測――確定事項、赤銅色の機体に苦戦しない。現状十分すぎる力。
これを持って、全てを噛み砕く。全てを撃ち貫く。
今必要なこと――無駄な力の発散。
鋼鉄の肉体の機動を停止。
周囲を確認――静寂。正しき、存在のあり方。
鋼鉄の孤狼は眠る。
もはや本来の主起きること叶わず。
その身に降りた意思は、悪夢を求め、夢を見る。
悪夢は、肥大化する。
【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ゲシュペンストMkV(スーパーロボット大戦 OG2)
パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染。
機体状況:アインスト化。ディバイデッド・ライフル所持。機体が初期の約1,2倍(=30mより少し小さいくらい)
現在位置:G-6基地跡地、発電施設内
第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
最終行動方針:???
備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
備考2:ゲシュペンストMkVの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
ただしアインスト化および巨大化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
実弾装備はアインストの生体部品で生成可能。
備考3:戦闘などが行なわれた場合、さらに巨大化する可能性があります(どこまで巨大化するか不明)。
直接機体とつながってない武器(ディバイデッド・ライフルなど手持ち武器)は巨大化しません。
現在はギリギリディバイデッド・ライフルが使用できますが、これ以上巨大化した場合規格が合わなくなる恐れがあります。
胸部中央に赤い宝玉が出現】
【二日目 12:30】
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