148話C「疾風、そして白き流星のごとく」
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「さて……どうしたもんかね、こいつは」

 目前であがく「少年」を見下ろし呟くガウルン。
 その少年の名は紫雲統夜。今は自らの衣服によって自由を奪われている。

「畜生! 解け、解けよっ! 何なんだよあんたは!」
 
 空を埋め尽くすミサイルから辛くも逃れた彼は、偶然落ちた地下空間に潜伏しようと決め、交戦座標から幾分離れたところで休憩を取っていた。
 疲労がたまっていたためすぐに眠りに落ち、起きたら目の前にはヤバそうな男、自身は縛られていた。

「あんたも俺を殺そうってのか!? くそっ、ふざけるな、俺は死なない! 死にたくないんだッ!」

 アムロとブンドルからまんまと逃げおおせたガウルンが気づいた違和感。
 先ほど撤退するとき、ごく自然に「右手で」ビームナイフを投擲した。
 右拳は沈黙したはずなのに―――
 だがガウルンはまあいい、と気に留めない。この機体がヤバいのは薄々わかっていたことだ。
 戦えるのなら万々歳だ。癌の痛みも消してくれてありがたいことこの上ない。
 それでもさすがに休息が必要と感じ、地下通路を彷徨っているうちに見つけたのがこの少年だった。

 マスターガンダムの三倍はあろうかという巨大な機体。
 だがここまで接近しても構えないどころか反応すらしない。
 まさかと思い機体から降りて接近し、案の定動きのない巨体によじ登り――――――

 こうしてヴァイサーガのコクピットから引きずり出された統夜は、上着を引き裂かれて作った縄で縛られているというわけだ。
 鬼気迫る顔で喚く統夜に、殺して機体を奪おうかと思案していたガウルンの胸中にふと興味が生まれる。

―――こいつは面白い。こう容易く無力化されるということは訓練された兵士ではないのだろうが、言動や表情から察するに「乗って」はいるようだ。
 そしてこの時間まで生き残っている。群れる仲間もなく、なら逃げ回っていたかと言えば機体の損傷具合からそれもない。
 つまりは機動兵器操縦の資質があるということだ。もちろん、資質だけでなく機体性能もあるのだろうが。
 今は死の恐怖に呑み込まれ己を見失っているようだが、「そこ」を過ぎれば化ける。
 そう、あのカシムのように死をすぐ隣にあるものとし、命というものに無感動になれば。
 今はまだ蕾。だがそれが花を咲かせれば……きっと、「楽しめる」。
 決まりだ。こいつは叩けば叩くほど鋭くなる。そしてこのゲームはそのための餌には事欠かない―――

「落ち着けよ坊主。何も取って喰いやしねえよ。お前、このゲームに乗ってるんだろう?」

 ようやく声を出したガウルン、少年は油断なく……というより恐怖に強張った目で睨みつけてくる。

「俺もそのクチさ。だがさすがに歳なもんで、一人じゃ辛いと思ってたところでな……」

 両手を上げ敵意がないことを示す。その後もいくつか言葉を重ね、自身も手頃な段差へと腰を下ろす。
 殺すつもりがないとわかったのか、少年が脱力した。
 些か情けないと思ったガウルンだが、まあこれからだと思い直し、告げる。

「そこでだ、坊主。俺と手を組まないか?」

 ……目を丸くした少年の顔は、正直なところ傑作だった。



【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労大、苛立ち、マーダー化 拘束
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN1/4、烈火刃残弾ゼロ
 現在位置:C-8地下通路
 第一行動方針:なんなんだこいつ……!?
 最終行動方針:優勝と生還】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:激しい疲労、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・胸部装甲破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷大、全身の装甲に深刻なダメージ EN20%
 現在位置:C-8 地下通路
 第一行動方針:統夜に興味。育てばいずれは……?
 第二行動方針:アキト、テニア、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【二日目7:35】


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