139話「ハイドベノン」
◆ZbL7QonnV.
「さぁて、どうしたものかな……」
傷付き果てた大雷鳳の中、流竜馬は考えを巡らせていた。
これまで苛烈な戦闘を繰り返し続けてきた結果、大雷鳳の損傷状態は極めて激しくなっている。
まだ戦う事は出来るだろうが、本来の戦闘力を発揮する事は不可能であろう。
それでも並大抵の敵に敗れ去るとは思わないが、今自分の前に立ち塞がっている敵機は少々手強そうだった。
大雷鳳に匹敵する巨躯を誇り、なおかつ無傷に近い状態の機体。
その巨体が張子の虎でないとすれば、まともに戦り合っても一方的に叩き潰されかねない。
……それに、なによりも惜しいと思う。
今の大雷鳳が連戦に耐えられないと言う事は、頭に血が上った竜馬とて理解はしている。
だからこそ機体の整備を行えないものかと、竜馬は基地に進路を向けた。
あの、隼人を殺した紅い機体……。
憎悪の対象を取り逃がす事になろうとも、竜馬は生き延びる事を優先させたのだ。
だが、無傷の機体に乗り換える事が出来るのならば、今の機体を無理に修復する必要は無い。
そもそも、これほどまでに傷付いた大雷鳳を完全に修理する事など出来るのかどうか。
もし次の放送で進入禁止エリアに基地が指定されてしまったら、修理を行う時間など無くなってしまう。
基地の中に修理用の機材が存在するかどうかすら、はっきりとはしていないのだ。
どうにかしてパイロットを機体から引きずり出して、ブチ殺してやる事が出来さえすれば……。
そう、思っていた時だった。
『――警告します! 戦う意思が無いのであれば、そこで機体を停止させてください!』
大雷鳳に向けて、通信が入れられたのは。
「あれは……まさか、ゼクスさん達の言っていた“百式”……!?」
ゼクス・マーキスの口から聞いていた、マサキ・アンドーが搭乗しているはずのMS。
その特徴に当て嵌まる大破した機体を目の当たりにして、ベガの心は激しく揺れていた。
この無意味な殺し合いに乗ろうとは思わない。
だが、相手が殺し合いに乗っていると言うのならば、無抵抗で殺されようとも思わない。
ましてや、今の基地には対主催の鍵となる、首輪解析技能を持ったユーゼスがいる。
殺し合いに乗った危険人物を、基地に近付ける訳にはいかない。
だから、警告は一度だけ。もし警告を無視するようなら、躊躇無く徹底的に攻撃する。
……そのつもりで行った通信ではあったが、それに返って来た反応は彼女の予想を外れていた。
『ああ、いいぜ。なんだったら、この機体から降りてやった方が良いのか?』
「え……?」
それは、敵意の無い事を示そうとする誠意――に見せ掛けた、竜馬の策略に他ならなかった。
まず第一に警告を行って来たと言う事は、殺し合いに対して積極的ではないと言う事だ。
特に、この激しく傷付き果てた大雷鳳を見ても警告を行なってくると言う事は、どこまでも人の好い平和主義者なのだろう。
ならば、こちらから「機体を降りる」と言えば、それに対する誠意として自分も機体を降りる公算が高い。
多少、体力を消耗しているのは難だったが、それでも無理が利かないほどではない。
通信の声は、女だった。女一人を縊り殺す程度ならば、多少の疲労など問題にもなるまい。
無傷の機体を手に入れられる可能性を前に、流竜馬は獰猛に表情を歪めていた。
【流 竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:衰弱
機体状態:装甲表面に多数の微細な傷、頭部・右腕喪失、腹部装甲にヒビ、胸部装甲に凹み
現在位置:G-6西部(基地外)
第一行動方針:ローズセラヴィーの奪取
第二行動方針:G-6基地で機体の整備
第三行動方針:クルツを殺す
第四行動方針:サーチアンドデストロイ
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考1:ゲッタートマホークを所持
備考2:百式の半身を引き摺っている】
【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)
機体状態:良好
現在位置:G-6基地西部
第一行動方針:流竜馬と接触する
第ニ行動方針:G-6基地の警護
第三行動方針:首輪の解析
第四行動方針:マサキの捜索
第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考1:月の子は必要に迫られるまで使用しません
備考2:ユーゼスの機体を、『ゼスト』という名の見知らぬ機体だと思っています
備考3:ユーゼスのメモを持っています】
【二日目4:40】
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