171話B「遺されたもの」
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正午まであと数十分という時間、B-1地点。
騎士凰牙と、ハイパーデンドー電池4本に騎士凰牙の左腕を取り付けた恐竜ジェット機は、地図北西に位置する市街地へとやってきた。
だがそこには期待していたナデシコの船影はなく。
しかし代わりというものでもないが、一つ。見つけた物もあった。
勝利者の名を冠する、蒼き流星――ガナドゥール、その敗れ果てた姿を。

初めにロジャーが呼びかけたものの反応はなく、接近してみればその理由はすぐにわかった。
おそらくはこの機体のパイロット。地面に横たえられ、胸の上で手を組まれている。
彼自身の服なのか、青いジャケットが顔に掛けられていた。

ソシエを待たせ、まずロジャーが確認する。予想通り、そこにあるべき顔はなく、首輪も抜き取られていた。
順当に考えるなら、彼――でいいだろう、おそらく――を殺した者が首輪も奪って行った、だが。
しかしそれだとこの弔うような遺体の説明はつかない。
だとするなら、彼は何らかの要因で死亡したが殺害者にはそのまま放置され、新たにやってきた第三者が首輪を取り、こうして安置したということだろうか?
いずれにせよ、今は答えは出ない。首を振り立ち上がると、ソシエが呟いた。

「ねえ、ロジャー。その人にお墓を作ってあげましょうよ。こんな淋しいところに一人ぼっちじゃ可哀想だわ」
「そんな時間は……いや、そうだな。彼が何者であるとて、死後も責めることなど誰にも出来はしない。せめて、静かに眠らせてやろう――」

騎士凰牙を使えば人一人分の穴を掘るのは容易いことだった。
顔のない青年を、穿たれた穴へと安置する。

「私の名はロジャー・スミス。君の名を知ることができないのが残念ではあるが――どうか、安らかに眠りたまえ」
「私はソシエ・ハイム。ごめんね、あなたの機械人形、使わせてもらうわ。あの化け物、私達が絶対に退治して見せるから」

埋葬を終え、ソシエがガナドゥールに乗り込んだ。
機体を見つけたら自分が乗ると言っていたソシエのこと。止めようもなかったが、その顔に浮かぶ哀悼の念を見てその必要もないかと自戒する。
彼女はただ守られるだけの存在ではない。突き付けられた理不尽に怒り、自分の力で前に進もうとする――紛れもない戦士だ。
軽く見ていたのは自分の方だったらしい。苦笑とともに、尚更死なせるわけにはいかんなと決意する。
ともかくもガナドゥールだ。頭部は全壊し、全身あらっゆるところに損傷が見られる。

「ソシエ嬢、機体の調子はどうかね? 外から見た限り、戦闘行為は厳しいように思えるが」
「うーん……動かせはするけど、戦うことは難しいわ。反応が鈍いし、出力も上がらない。
 どうも色んな部品が抜き取られているみたい。誰だか知らないけど、まったく迷惑な話ね!」

ぎこちなく立ち上がるガナドゥール。騎士凰牙とガナドゥールはほぼ同サイズで、目線はほぼ対等の位置にある。

「そうか。ではこれまで通り、交渉は私に任せてもらおう」
「そこは『戦闘は任せてもらおう』、じゃないの? それにね、たとえこの機械人形自身が戦えなくても、援護くらいはできるわ。
 テニアの機体みたいな、勝手に飛び回る武器が付いているのよ。私だってやってみせるわ」
「む。しかしだな、ソシエ嬢。援護くらいとは言っても、その状態では無謀だ」
「ロジャー。最初から無茶だ無謀だなんて言っていたら、それこそ何もできないわ。
 私は何もしないで後悔するくらいなら、まずやってみてそれから後悔する方を選ぶ。だって、その方が少しでも前に進んでいる気がするでしょう?」

朗らかに笑うソシエ、参ったとばかりに両手を掲げるロジャー。
ひたむきに前を向いて歩ける。これが大人と子どもの違いなのか、と柄にもないことを考えて。

「では、ナデシコの捜索に移ろう。と言っても、あの目立つ艦がそうそう見つからんということも考えられないが」

言って、市街地を歩き始める二機の巨人。
母なる星を救うべく奔走し、流星のように散っていった戦士の墓を後にした。





しかし、数十分の捜索にも関わらずナデシコは見つからなかった。

「入れ違いになった……か? ふむ、まずいことになったな」
「どうするの? とりあえず二つの市街地を回っていなかったんだから、一旦キラのところに戻る?」
「そう……だな。接触できたのがナデシコの別動隊と、許しがたいチンピラのみというのは甚だ遺憾ではあるが……」

騎士凰牙の欠けた左腕、そしてガナドゥール。Jアークで修理すれば、どちらもより万全な状態へと持っていけるだろう。
現在の位置からキラのいるE-3に向かうとすれば、途中立ち寄れる市街地はE-1かD-3のどちらか一方。
ナデシコがどこに行ったのかは分からないが、可能性としてはやはり市街地が大きい。
ではどちらを経由するかだが――

「ねえ、私が――」
「別行動は却下だ。君の機体は今まともに戦える状態ではないということを忘れるな」

ソシエが提案する前に、先回りして潰す。
手分けすれば確かに両方を回れるが、もし彼女が敵に遭遇した場合応戦どころか撤退すら危うい。
分散ができないとなれば、どちらかを選ばなければならないのだが、その判断の基準がない。
移動距離はどちらも同じくらいだ。どちらを選ぼうが、ナデシコがいないのなら結果的にE-3に到達する時間は同程度だろう。
どちらを選ぶか――迷うロジャー。常の彼なら即断するところだが、ここに来てからの度重なる失態はその自信を揺らがせるものであった。

モニター越しに遥か彼方を睨み据えるも、一向に判断は下せなかった。


















そして、遠くビルの上からそんな彼と彼女を見つめる猪と、蛇。その視線にも、気付かないまま――






【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN100%
 現在位置:B-1 市街地
 第一行動方針:さて、どうするか……
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯】



【ソシエ・ハイム 搭乗機体:ガナドゥール
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:頭部全壊、全体に多大な損傷 駆動系に障害 機体出力の低下
 現在位置:B-1 市街地
 第一行動方針:どうすんのよ、ロジャー
 第二行動方針:ブタ?
 第三行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第四行動方針:この機械人形を修理したい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)を所持
 備考3:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)、騎士凰牙の左腕を携帯 】


※備考(無敵戦艦ダイ周辺)
 ・首輪(リリーナ)は艦橋の瓦礫に紛れています


【二日目11:40】


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